浦和のスタッフとして歩む第二の人生 Jリーグで生きる人々 堀之内聖<前編>
サポーターとの距離を縮めるOBという経歴
サポーターの協力を仰ぐ際、OBというプロフィールが大いに役立っているという 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
いかに数多くの情報を共有できるか。その実現には直接コミュニケーションを取るのが最も重要ではないかという結論から始まった取り組みと言っていい。ホームゲームに比べてスタッフの数に限りはあるが、アウェーゲームでも同様の取り組みを行なっている。当然ながら、堀之内もスタッフの一員として、スタジアムを巡回しているという。かつてスタンドの大声援をバックにプレーした堀之内にとって、ファンサポーターの存在はやはり特別だ。
「現役時代は称賛のほか、叱咤(しった)激励もあり、皆さんに勇気づけてもらいました。最近は『浦和に帰ってきてくれて、ありがとう』と言っていただくことも多く、とても感謝しています。いまも『一緒に写真を撮ってください!』と言われることもあり、ほんの少し選手気分を味わえるのも、いいですね。笑」
堀之内にとって直接サポーターと接するのはある種の喜びだ。もっとも、現在はファンサポーターの不満を聞く一方、お願いごとをする立場でもある。時には彼らにとって耳の痛い話もしなければならない。そうした時には、地元(埼玉)出身にして浦和の黄金期を支えたOBというプロフィールが大いに役立っているという。本人は「良し悪しは別にして」と前置きした上で、こう話す。
「サポーターの方々との距離をぐっと縮められる、というのはあるかもしれないですね。僕が『何とかご理解いただけますか?』とお願いすると『仕方ねえな。我慢するか』と言っていただけることが少なくありません。本当にありがたいことです。サポーターの方々に甘えてしまってはダメですが、良い意味で生かせるなら、自分の強みにしていきたいですね」
「35歳のルーキー」が持つ危機感
スタッフとしての力不足を自覚しているという堀之内は危機感を持っている 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
「先日は自主的にチラシ配りに参加していました。自分でサインペンを持って行ってね。いかに他のスタッフと同じ目線で仕事ができるか。それには相応の時間が必要だろうと思っていましたので、そうした動きはうれしいことですね」
OB選手からスタッフの一員になりつつあることが今回、取材依頼を受けてもらえたことの背景にある。堅実なDFとして鳴らした現役時代そのままに、本人には少しも浮ついたところがない。スタッフとしては知識も経験もまだまだ足りないという自覚があるからだ。実のところ「35歳のルーキー」には先を急がなければならない、という危機感があるという。
「正直、大変だなと。いまの自分には業務内容も難しいですから。本当に新人だなと日々、痛感しています。他のスタッフの方々はいろいろと気を遣ってくださるのですが、一歩でも会社の外に出れば、新人扱いはしてくれませんからね。実際に一般的な社会人で、35歳となれば、相応の知識も経験もある年齢ですから。まだ半年、まだ1年ということで大目に見てもらえるほど甘くはないと思っています」
文字どおり、襟を正して語る。J1リーグはこれからクライマックスに突入していくが、パートナー営業部のスタッフにとってはシーズン終了後が「本番」となる。パートナーとの契約更新や、新規顧客の開拓など、オフシーズンが1年で最も忙しい。現役時代とは真逆である。戸苅から「これから忙しくなるぞ」と発破をかけられ、表情を引き締めた堀之内の目に強い意欲が宿っていた。
<後編につづく>
(協力:Jリーグ)