挫折を経て強くなる本田圭佑のメンタル どんな苦境も力に変えて走り続ける

元川悦子

ブレークするまでいつも時間がかかる

長年苦労を共にしている岡崎(中央)は「すぐに結果を出すタイプじゃないけど、それでも這い上がる」と本田を称賛する 【写真:ロイター/アフロ】

 その後、星稜高校、名古屋グランパス、VVVフェンロ、CSKAモスクワと渡り歩き、日本代表も(イビチャ・)オシム時代の06年から呼ばれているが、ブレークするまでにはいつも時間がかかった。同じように下積み生活が長かった岡崎慎司は、その苦労を共有しつつ、長い目で本田を見守ってきた。

「圭佑は『有言実行』って言われているけれど、すぐに結果を出すタイプじゃない。1回たたかれて、それでも這い上がるから、有言実行になっていると思うんです。南アフリカのW杯の時もそう。予選とかは全然で、表舞台に出てきたのは最後の方だった。そこまで力を蓄え、ブレない気持ちを持っていて、出した結果が有言実行につながっている。だからミランでもシーズン終盤戦くらいにゴールを量産して、結局は『本田圭佑すごい』ってなるんだろうって俺は踏んでるんですけどね」と、ブラジルW杯前の今年2月、同い年の盟友は期待を込めて話していた。残念ながらそのタイミングは半年ほど遅れてしまったが、岡崎の予言通りになったのは確かだ。

 本田が回り道しながら最終的に際立った結果を残せるのは、それだけの高い志を持って、常日頃から準備を入念に行っているからだ。ザック体制の4年間、同じチームで過ごした権田修一は、その一挙手一投足を目の当たりにした生き証人の1人である。

「圭佑君がブラジルW杯の最中に必要以上に自分を追い込んだとか言われているけれど、僕らから見ると、ブラジル大会の前も間も後も全然変わっていません。自分に厳しく、1つひとつのプレーや勝負にこだわる姿勢を強く持っていて、どうしたら自分たちが成長できるかを常に考えている。それを口に出すし、率先して実行する。大きなことを言っても圭佑君だったら実現しちゃうんじゃないかって思わせるところもありますよね。そういう選手はJリーグでやっている中にはあまりいない。(長友)佑都君もそうだけど、彼らを追いかけていけば間違いないんだなと再確認できました」と、権田は改めて尊敬の念を口にした。

身にまとっていたよろいを脱ぎ去りつつある

10月の親善試合ではブラジルに完敗。4ゴールを挙げたネイマール(黄色)に心から敬意を表した 【写真:ロイター/アフロ】

 選手同士の間では何一つ、変わらないのかもしれないが、本田の言動はブラジルW杯を経て明らかに変化している。ハビエル・アギーレ監督率いる新生・日本代表の一員として9月、10月と続けてチームに帯同した彼からは、以前のような肩に力の入った発言は聞かれなくなり、自然体で振る舞っているのがしっかりとうかがえた。ジャマイカ戦で決定的なシュートを外した際には「まあ、あんなもんかな。今の実力からすれば」と自分が発展途上であることを素直に認め、ブラジルに完敗した後も「ネイマールはすごいなと思いますよね。アルゼンチン戦はあれだけチャンスを外していたのに、結局、得点王になる選手っていうのは、こういうところで4点、5点取るんだなと。リーガではクリスティアーノ(・ロナウド)と(リオネル・)メッシがすごいんでしょうけれど、ネイマールから学べることは本当に多いですね」と心からの敬意を表していた。その物言いに尖ったところは一切、感じられなかった。

 ザックジャパン時代にチーム内がギクシャクしていた昨秋などは、メディア対応をほとんどせず、試合後でさえミックスゾーンを素通りしていたのに、今は必要に応じてきちんと話をしている。キャプテンマークを託された責任感もあるのかもしれないが、南アフリカW杯の成功以来、他者との壁を作ることで自分を保ってきた本田が、身にまとっていたよろいを脱ぎ去りつつあるのは事実だろう。

「今の圭佑がメディア対応をごく普通にやってるとしたら、それが本来の姿だ。もともと賢いやつだから、W杯が終わって1回、自分をリセットしたんじゃないかな。圭佑はいろいろな人の声や批判を気にするタイプではあるから、今までは意図的に対策を取っていたのかもしれないけれど、自然体に振る舞うことで結果を出せるようになったのなら良かったと思う。人間、年齢を重ねれば見えるものも多くなる。結婚して子どもができたりすれば、立ち振る舞いが変わるのも当然のことだからね」と反町監督は素の状態に戻った本田を好意的に見ていた。

 紆余(うよ)曲折の末、28歳にして感情をコントロールする術(すべ)を身につけた彼は、持ち前のリバウンドメンタリティーを武器に、自分自身をより一層、研ぎ澄ませていくことだろう。イタリアというカルチョの国では、ゴールラッシュが止まればすぐさま批判の矢面に立たされかねないが、成功も失敗もすべてエネルギーに変えられるこの男なら難なくクリアできるはず。ミランの10番として、そして新生・日本代表のエースとして、引き続き、輝きを放ち続けてほしいものだ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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