慶応大を強くする「戦術の使い分け」 ラグビー界の古豪が進化

斉藤健仁

強豪の筑波大にも快勝し、充実の4連勝

4連勝と好調な慶応大。戦術を組み合わせて多彩な攻撃を見せている 【斉藤健仁】

 黒黄ジャージーが躍動している。関東大学ラグビー対抗戦Aは10月末までに8校が4試合を戦い、前半戦が終わった。大学選手権6連覇を目指す帝京大、昨年のファイナリスト早稲田大、FWとBKのバランスに優れた明治大、そして慶応大が4連勝を達成、大学選手権への出場を決定的とした。強豪の筑波大など他の4校は4連敗と明暗がはっきり分かれた形だ。

 中でも昨季の大学選手権ベスト4の慶応大は、春季大会は帝京大、早稲田大、大東文化大に敗戦し1勝4敗の5位、夏も帝京大や法政大に敗れるなど、調子は良くなかった。それでも、9月に対抗戦が開幕すると「春から積み上げてきたものがある」(和田康二監督)という慶応大はボールを広く動かしつつトライを重ねて、明治学院大、青学大、筑波大、立教大を連破、充実ぶりをうかがわせた。
 もちろん昨季から和田監督がこだわる早く前に出るディフェンスと、S&C(ストレングス&コンディショニング)の成果も出たとも言える。

栗原徹氏らの助言で取り入れた新戦術

積極的に新戦術を導入している就任2年目の和田監督 【斉藤健仁】

 ただアタックではボールの動かし方が明らかに変わった。変わったというより、バリエーションが増えたという方が正しい。昨季、就任1年目の和田監督は積極的に日本代表合宿を視察、豪州合宿も敢行。その影響もあり、攻撃は基本的に順目に多重的に攻める「アタック・シェイプ(以下シェイプ)」を軸とした。だが、今季は「ポッド・アタック(以下ポッド)」を導入、ボールを広く動かす場面も目立っていた。和田監督が学生や、テクニカルアドバイザーを務める栗原徹氏(和田監督とは清真学園高と慶応大の同期)に相談しつつ、夏合宿から取り入れたという。

 トップリーグではパナソニック、NEC、神戸製鋼、ヤマハ発動機、今季から栗原氏がコーチを務め、初のトップ8入りを決めたNTTコミュニケーションズや近鉄、大学では3年ほど前から同志社大、昨季の早稲田大、今季からは慶応大だけではく大東文化大、流通経済大などがポッドを新たに採用。ポッドは、簡単に言えば、シェイプと同様にリサイクルベースの攻撃だが、FWとBKが関係なくボールを動かす。FWの選手がライン際のアタックラインに参加している場合も「たまたま」ではなく「意図的に立っている」わけだ。

ユニット間でボールを動かし、相手を崩す

FWやBKといったポジションに関係なく、次々と攻撃を仕掛ける 【斉藤健仁】

 慶応大は基本的には3つのユニットからなる「3ポッド」を使っている。例えば真ん中のユニットにはFWが4人、両サイドのユニットはFWが2人、BKが2人の4人といった具合だ。個々のFWがどのポッドに立つかはラインアウトやスクラムごとに変えているという。ピッチを3分割して立つのではなく、各ポッドの幅が攻撃ラインの幅となる。そしてスクラムハーフ(SH)とスタンドオフ(SO)、チームによって異なるがセンター(CTB)やフルバック(FB)がSOの位置に入り、3人がアタックのタクトを握る。

 ラグビーでは攻撃側が常に意志決定権があり、ポッドは「ボールは人よりも早い」という原則に基づいている。そのため相手が組織ディフェンスを整える前に、攻撃側が順目ではなく縦に動くことでポジショニングを優先し、素早く球を出しつつ振り子のようにユニット間でボールを動かし、相手を崩す。
 また、真ん中のポッドをおとりにしつつ大きく外に展開することも可能。基本的には両サイドのウイング(WTB)に相手が追いつかない状況を狙う。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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