慶応大を強くする「戦術の使い分け」 ラグビー界の古豪が進化

斉藤健仁

FWのパス能力、判断力に自信

重要なディシジョンメーカーを務めるSH宮澤尚人 【斉藤健仁】

 ポッドで攻める慶応大は「ボールキャリア(ボールを持って前に進める)になれる選手が多いこともありますが、(戦術の)パターンを変えたことも影響している」(和田監督)と言うように、明らかにラインブレイクが増えた。また両翼のWTB服部祐一郎(4年)と関東申峻(4年)がトライを量産しているということは、ポッドがある程度、機能している証とも言えよう。「(ポッドは)夏から徐々にできるようになって、秋にはそれが良い形で出ている」(関東)

 ディシジョンメーカーの1人、SH宮澤尚人(4年)も言う。「昨季はシェイプにこだわっていて、シェイプで攻めている時はSHとして攻撃のテンポを重視していました。ポッドは真ん中にボールを振った後に、両サイドにオプションがあるので左右どちらに攻めるかが大事になってきます。僕とSOの矢川(智基、3年)で間違った判断をしないように意識しています」

 当然、ポッドはポジションに関係なくボールを左右に動かすため、FWのパス能力、判断力も必要だ。「15人がどう立つかはシンプルにして、後は個々の判断に任せている」という和田監督も「(ポッドでは)FWでもパスが器用にできる選手がいるかも重要です。フッカー(HO)神谷(哲平/4年)、プロップ(PR)吉田(貴宏/4年)、フランカー(FL)木原(健裕/4年)、ナンバーエイト(No.8)森川(翼/4年)はかなり器用ですし、白子(雄太郎/4年)はもともとBKでしたから」と、パスだけでなく突破力にも長けた4年生FW陣への信頼は厚い。

「使い分けて、駆け引きをしていきたい」

「ゲインできないとボールを下げてしまい後手に回ってしまう」と課題を語るNo.8森川 【斉藤健仁】

 ただポッドも万能な戦術ではない。No.8森川は「ゲインできないとボールを下げてしまい後手に回ってしまう。真ん中のポッドではボールをリサイクルさせ、外でどれだけゲインできるかが大事」と冷静に分析する。また相手ゴール前では、ポッドからシェイプに切り替えるチームも多い。慶応大もポッドに固執することなく、昨季から取り組んできたシェイプも使って幅を持たせている。「両方のオプションを持っていることはいいこと。エリアや相手のディフェンスの出方によって使い分けて、駆け引きをしていきたい」(SH宮澤)

 和田監督が「策やパターンに溺れないようにしないといけない」と言うとおり、相手や得点差、エリアなどに応じて両方の戦術をうまく機能させることは、そう簡単なことではない。SO矢川が「ポッドが未完成なので、もっとできれば楽に戦えるようになると思う」と言えば、No.8森川も「今のところ、うまくいっているというわけではない。ポッドとシェイプの使い分けが難しい」と感じている。

個々の能力で劣っても、チーム力で勝負

「ポッドはシンプルで分かりやすいから楽しいです」と語る木原主将 【斉藤健仁】

「僕らは代表歴のない選手ばっかりで、メンバーだけを見れば慶応が勝つと思う人はいないかもしれない。セットプレーと基本プレーが何よりも重要。これから心置きなく強いチームにチャレンジします」(和田監督)という慶応大は11月2日に明治大、23日に早稲田大、30日に帝京大と、上位3チームとの対戦が待つ。また「ポッドはシンプルで分かりやすいから楽しいです」というFL木原主将は「これからの試合、そして順位が大学選手権につながっていく。一戦必勝で、自分たちはディフェンスのチームであるという意思統一をし、率先してチームを作り上げていきたい」と静かに闘志を燃やしている。

 たとえ個々のメンバーの能力が少し劣っていたとしても、15人のチーム力で数々の好勝負を演じてきた慶応大。シーズンが深まるにつれて、どこまでチームを成熟させることができるか。「今季は期待されなくてもいい。ダークホース」(和田監督)というタイガー軍団がシェイプ、ポッドの両アタック戦術にさらなる磨きをかけて、ライバルたちに牙をむく。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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