阪神・呉昇桓が取り戻した「自分らしさ」 日本一へ盟友・李大浩との対戦も鍵に

室井昌也

韓国在籍時から変わらないクローザー哲学

来日1年目から39セーブを挙げ、阪神の日本シリーズ進出に貢献した呉昇桓。シリーズでもピッチングに期待が集まる 【写真は共同】

「いつもと同じです」

 阪神・呉昇桓は自身の状態について尋ねられると、日韓、どちらのメディアに関わらずこう答える。ぶっきらぼうに聞こえるこの言葉だが、そこには呉昇桓のクローザー哲学があった。

「抑えとして一番大事なのは、感情の起伏がないことです。1年間通してやっていく中で、結果の良し悪しで何かを変えることはありません」

 日本進出1年目の今年、セ・リーグトップの39セーブを挙げた呉昇桓。クライマックスシリーズ(CS)では6試合すべてに登板し、MVPを手にした。そして今、福岡ソフトバンクとの日本一をかけた戦いに臨んでいる。その姿は9年間で277セーブを挙げ、5度の韓国シリーズ優勝に貢献してきた、韓国在籍時と遜色ない。ストレート主体の強気の投球も、韓国当時と変わりない。常に信念を貫く呉昇桓だが、シーズン途中、いつもとは違う、弱気な言葉を漏らしたことがあった。

100パーセントではなかった来日1年目

 7月5日、横浜DeNAとの試合前。呉昇桓はこう切り出した。

「実は日本に来て、これまで100パーセントのコンディションで臨めた試合は一度もないんです。考えてみたら、サムスンで(2011年から)3年連続(公式戦で)優勝して、毎年、韓国シリーズに出場。その間、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)もあって自分でも気がつかない疲れがたまっているのかもしれません。去年はオフにしっかりとトレーニングをしたけど、日本に来てから、まだ思うような球が投げられていません。今の自分がいいのか悪いのか分からないです」

 呉昇桓はその時点でリーグトップの17セーブを挙げていたが、5月から6月にかけての交流戦では2敗を喫するなど、不安な姿も見せていた。6月20日に発表されたオールスターファン投票中間発表ではセ・リーグの抑え部門1位だったが、27日の最終発表では2位。監督推薦でも選ばれず、オールスター出場はならなかった。しかし呉昇桓はこのことをプラスに考えていた。

「今の自分は、オールスターに出ないでリフレッシュした方がいいのかもしれない」

 ポーカーフェースを装っていても、新たな環境では必ずしも「いつもと同じ」ではなかった。

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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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