阪神・呉昇桓が取り戻した「自分らしさ」 日本一へ盟友・李大浩との対戦も鍵に

室井昌也

夏場に見えた大きな変化

韓国・サムスン時代は9年で277セーブを挙げ、5回の優勝に貢献した(写真は2006年のアジアシリーズ) 【アフロスポーツ】

 しかし呉昇桓は夏場に入り、自分らしさを取り戻していく。目に見える変化として、腰回りが大きくなっていった。春先には「なぜか分からないんですが、どんなに食べても体重が増えないんです」とこぼし、「体重が増えれば瞬発力がついて、球速が出るようになるんですが」と話していた。その体重は5月の時点ではプロ入り当時と同じという92キロだったが、今では数キロの増量に成功している。
 
 また呉昇桓は日本と韓国での攻め方の違いをゲームの中で学んでいった。
「日本の球場は韓国よりも狭いところも多いから、2ストライクの後に、高めで勝負することが少ないです。今は左右のコースを使うことを意識しています」

盟友・李大浩との対戦は実現するか?

 優勝請負人の呉昇桓。彼にとって、日本シリーズは「いつもと同じ」だろうか。すると、こんな答えが返ってきた。

「(公式戦優勝より、シリーズ優勝が重要視される)韓国シリーズに比べて、圧迫感はないですね。CSも戦ってきているし球場の雰囲気にしても、阪神の場合、シーズン中からたくさんお客さんが入っているので、いつもと同じだと思います」

 だが、ただ一つ、呉昇桓にとってシーズン中とは違うことがある。それは対戦相手に同い年の盟友、福岡ソフトバンク・李大浩がいるということだ。2人は試合前には言葉を交わし、食事の約束をするなど、いつもよりリラックスした時間を得ている。呉昇桓は第1戦の試合後、李大浩についてこう話した。「ヒットはでなかったけど、いい感じで打っていましたね」。

 その翌日の第2戦、李大浩は阪神の先発投手、能見篤史から豪快なソロアーチをレフトスタンドに放り込んだ。李大浩もまた「日本は日本シリーズより、シーズン優勝の方が重要なんじゃないんですか?」と日本シリーズでのプレッシャーを感じていない。

 もしこの2人が大一番で顔を合わせることになったら、どうなるだろうか。呉昇桓は「2人が対戦するということは、どちらかが悪い結果になるということ。だからそういう場面にならないことを願う」と話し、李大浩は「自分が活躍すれば、(呉)昇桓が出る場面にはならない。昇桓はCSでたくさん投げて大変だろうから、しばらく休んでくれればいいよ」と笑った。

 2戦を終え1勝1敗。今後も接戦が予想される今年の日本シリーズで、普段通りに臨んでいる呉昇桓は、阪神に29年ぶりの日本一をもたらすか。それともいつもとは違う、友の存在がそれを阻むのか。覇権の鍵は呉昇桓が握っているのかもしれない。

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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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