後藤落馬から5カ月半、岩田が語る『今』=「技術を磨くことしか自分にはない」

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後藤の落馬事故から5カ月半、岩田が『今の自身』を語る 【netkeiba.com】

 今週の秋華賞で、現役最多となる同レース4勝目を目指す岩田康誠。パートナーは、オークス馬ヌーヴォレコルト(牝3=美浦・斎藤誠厩舎)。ハープスター不在のなか、ローズSで圧倒的な強さを見せつけ、1番人気は必至の状勢だ。大一番を控えた10月某日、ローズSを経てのパートナーへの手応え、そしてあの落馬事故から5カ月半が経った現在の心境など、自身の今を語ってくれた。(取材・文/不破由妃子)

大本命を封じ込めたオークスは……

ハープスターを封じ込めてのオークス勝利、しかし岩田の口から出た言葉は…… 【netkeiba.com】

 2014年、オークス。大外に持ち出した大本命ハープスターは、なかなかエンジンが掛からない。届くのか──全国の競馬ファンが固唾を呑んで見守るなか、いち早く馬場の真ん中から抜け出してきたのは、岩田康誠が操るヌーヴォレコルトだった。

 大外から猛追するハープスターをクビ差凌いでのトップゴール。これにて岩田は、桜花賞(2012年ジェンティルドンナ)、皐月賞(2009年アンライバルド、2010年ヴィクトワールピサ)、オークス(2014年ヌーヴォレコルト)、ダービー(2012年ディープブリランテ)、菊花賞(2004年デルタブルース)の五大クラシック制覇を成し遂げた。

 レース直後の勝利ジョッキーインタビュー。インタビュアーから史上7人目となるこの快挙についてコメントを求められた岩田は、

「それよりも……」

 声を絞り出すようにして話し始めた。

「3週間前に後藤さんを落としてしまった自分の不甲斐なさを反省しております。後藤さんには1日でも早く復帰してもらいたいです」

 本来なら、晴れやかな表情で勝利の喜びを語るべき時間。しかし、岩田の顔には、GIを制した直後の高揚もなければ、大本命を封じ込めた喜びの欠片もなかった。そこには、ただただ悲痛な表情で言葉を絞り出す、見たことのない岩田康誠がいた。

「(ヌーヴォレコルトの)馬主さんや調教師さん、スタッフのみなさんには申し訳ないと思ったんですが……。本来ならサングレアルで勝ったときの(後藤騎手の落馬があった直後のフローラS)インタビューで謝罪するべきだったんです。ただ、あのときは自分自身も混乱していて……。本当に申し訳なかったです」

 ファンにとっても関係者にとっても、そして岩田自身にとっても、ともすればあの謝罪の記憶が先行してしまいそうな今年のオークス。だがしかし、岩田の騎乗はまったくロスのない見事なものだったし、それに応えた馬の強さも本物だった。

オークスでは「逆転できるんじゃないかと思っていた」

 岩田が騎乗したのは、4戦目のチューリップ賞から。関東馬ということもあり、一度も同じレースに出走したことはなかったが、「東京と中京で勝ったときに、すごく乗りやすそうな馬だなと思って見ていました」と、すでに頭のなかにインプットされていた1頭だった。

「チューリップ賞のパドックで初めて跨りましたが、乗りやすそうに見えても、やっぱり牝馬だからカリカリしてるのかな……と思ったら、すごくおとなしくて。実際、返し馬でもレースでもムキになることなく走ってくれました」

 重賞初挑戦となった馬はもちろん、前年の阪神ジュベナイルF当日は香港で騎乗していたため、岩田自身もハープスターとはチューリップ賞が初対戦。その印象を問うと、

「それはもうね、直線はビューン!でしたからね。正直、力が違うなぁと思いました。でも、ハープスターにかわされたとき、もっと突き放されるのかと思ったんですが、自分の馬ももう一度グーンと伸びましたからね。あ、まだ脚があるんだなと」

 迎えた桜花賞は5番人気。後方12番手から直線勝負に賭けたが、大外一気を決めたハープスターから、クビ、3/4馬身の3着に終わった。それでも、4コーナーで多少置かれるシーンがありながら、最後は馬の間を猛然と伸びてきたあたり、十分に底力を感じさせる内容だった。

「もともとハープスター相手のマイル戦は分が悪いとは思っていたんですけどね。チューリップ賞もそうでしたが、エンジンが掛かるのが遅いんです。4コーナーを過ぎたあたりでモタモタするシーンがあったので、結果的に、(馬群を)割るのが遅すぎたというレースでしたね。あそこでスッと行き脚がつけば、最後はもっと際どかったはずです」

 続くオークスは、桜花賞から一気に800mも距離が延びる未知の世界。終いの切れ味が真骨頂のハープスターには、当然の如く“距離不安説”が囁かれた。実際、3歳春の時点で2400mが得意な牝馬などほとんどいない。しかし、ヌーヴォレコルトについては、未勝利戦(東京芝1600m1着)で手綱を取った福永が「距離はもっとあったほうがいい」、岩田自身も桜花賞後に「距離は延びても大丈夫」と言い切っており、距離延長が追い風となりそうな気配は十分にあった。

「チューリップ賞も桜花賞も、最後までいっぱいいっぱいになっていませんでしたし、なにしろイレ込まないんでね。それに、小脚が使えないぶん、ジワーッと長い脚が使えるだろうという感覚もありました。ハープスターが後ろから大外を回ってくることはわかっていたので、あとはどれだけ自分がロスなく立ち回って、直線を捌いてこられるか。そうですね、逆転できるんじゃないかと思っていました」

 ライバルに蹄鉄が外れるアクシデントがあったとはいえ、岩田の読み通りの競馬で樫の女王に輝いた。レース後は早々に山元トレセンに放牧に出され、順調に夏を越した。秋初戦となったローズSの一週前追い切りには、栗東から駆け付けた岩田が騎乗。ウッドチップコースで長めから乗られ、終いは上々の伸びを見せた。

「攻め馬に乗ったのは初めてだったので春との比較はできませんが、とにかくすごい瞬発力でした。メンバー的にもそうですが、ローズSは取りこぼせないと思いましたね」

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