後藤落馬から5カ月半、岩田が語る『今』=「技術を磨くことしか自分にはない」
「ジェンティルのときのような感じかな」
「ジェンティルのような感じ」――岩田ヌーヴォレコルトは前哨戦ローズSを完勝、いざ大本命として秋華賞へ 【netkeiba.com】
「2400mから一気に1800mになってどうかなぁと思うところもあったんですが、次につながるレースができましたね。先行しても強い競馬ができるということを見せられたと思います。そうですねぇ、ジェンティルのときのような感じかな」
と、ジェンティルドンナで制した2012年のローズSを引き合いに出した岩田。道中2番手といういつにない積極策でヴィルシーナ以下を完封した一戦だったが、岩田はレース後、「本番に向けて、どんな競馬でもできるということを周りに見せつけるのがテーマだった」と語った。よほど馬の能力を信頼していなければ描けないテーマだ。
その“ジェンティルのときのような感じ”とは、今年も相当な手応えをつかんだに違いない。なにしろ、強敵ハープスターは不在。ここは負けられない一戦だろう。
「いや、そんなに甘くはないと思ってますよ。紫苑S2着のショウナンパンドラとか、自分が乗っていただけに能力が高いのはわかっていますし、そのときに勝ったレーヴデトワールも、もちろんライバルだと思っています。とはいえ、ヌーヴォレコルトもローズSでああいう競馬ができたので……」
と、他陣営を警戒しつつ、ヌーヴォレコルトにはたくさんの強味があることも十分わかっている。
「イレ込まないし、左回りが得意とはいっても右回りもまったく問題ない。京都の2000mは確かに難しいコースですが、ペースに合わせた競馬ができるのでそのあたりも心配していません。課題らしい課題はありませんが、もともと華奢なタイプですから、これ以上体が減ってほしくないっていうくらいかな。その点も、ローズSのあとは栗東で調整していますからね。クリアしてくれると思っています」
ローズSのあとは、たびたび馬房に顔を出しているという岩田。「競馬にいけばおとなしいのに、馬房のなかでは怖いんですよ。ジッと見られるのが嫌なのか、怒るんです(笑)」と、意外な素顔も発見した様子だ。
「自分には何かが足りない」
「迷惑をかけることなく、与えられたチャンスにひとつでも多く応えられるように」 【netkeiba.com】
「戸崎との差がまったく気にならないといったら嘘になりますけど、なにしろ18勝差(10月5日終了時点)ですからねぇ。戸崎は素直にすごい。すごいですよ。確かにリズムは良くなってきましたけど、自分はいいときと悪いときの波がありすぎて」
JRAに移籍して今年で9年目。つねにトップを目指し、何度もその頂に近づいた岩田だが、いまだ全国リーディングの栄冠には手が届いていない。
「何かが足りないんでしょう。何かがいろいろと……」
後藤の落馬事故から5カ月半。乗馬を始められるまでに回復した後藤だが、まだ復帰のメドは立っていない。そんな後藤の元に何度も足を運びながら、岩田の苦悩の日々もまた続いている。
「こんな自分がジョッキーを続けていてもいいのか、引退したほうがいいんじゃないかという思いが、つねに心のどこかにあります。落としてしまったという事実は一生消えない。しかも二度も……。今は本当に自分自身への情けなさでいっぱいです。もちろん、騎乗の上でも意識しています。ああいうことは気持ちの面が大きいので、とにかく焦らないように乗ろうと」
ファン、そして関係者からの風当たりも相当きついはずだが、「当然ですよね」とすべてを受け止め、目の前の仕事と向き合う日々。そんななか、変わらないのは毎週舞い込む多くの騎乗依頼で、ジョッキー・岩田康誠が求められているという事実だ。
「こんな自分でも乗せてもらえるんですから、本当にありがたいですよね。今はもう、迷惑をかけることなく、与えられたチャンスにひとつでも多く応えられるよう、技術を磨くことしか自分にはないと思っています。まずは、今度の秋華賞でいいレースができたら」
1番人気は必至の岩田&ヌーヴォレコルト。難コースとはいえ、武豊と並んで現役最多となる3勝を挙げているレースだ。岩田が導く二冠ロード──その瞬間を目に焼き付けたい。
(文中敬称略)