死の淵から蘇ったU−19日本代表 本領発揮でU−20W杯出場権獲得に王手

平野貴也

最大の危機が訪れる

韓国戦では、左サイドから再三ドリブル突破を仕掛けた金子の活躍が光った 【Getty Images】

 グループリーグの第2戦を終えた段階で日本は勝点3の3位。第2戦で韓国が中国に勝っていれば得失点差勝負も考えなければいけなかっただけに冷や汗ものだったが、韓国と中国が引き分けたため、突破の条件は最終戦で韓国を破るのみというシンプルな状況となった。

 しかし、攻撃の切り札となっていた奥川、主力組で輝きを放っていたDF広瀬陸斗(水戸ホーリーホック)、ベトナム戦でポスト直撃弾2発を見せたMF松本昌也(大分トリニータ)がいずれも第2戦で負傷。チームは緊急事態を迎えた。2試合の内容から考えて、このままでは勝てない。しかし、大きくメンバーを変えるのはリスクもある。その中で鈴木政一監督は、主将のDF三浦弦太(清水エスパルス)を外してまで4人の初先発を起用するという大胆な賭けに出た。結果は、どちらに転ぶのか。中1日での3連戦という肉体的な疲労と、状態が悪い中で強敵を破らなければならない精神的な疲労もあって心配されたが、最大の危機こそがチームを一つにまとめていた。

 大会直前まで不動のセンターバック(CB)として起用されていたDF内山裕貴(コンサドーレ札幌)は、韓国戦の前日に「ミャンマーに来る前日に(元日本代表の)中山雅史さんが来て下さって、アジアを勝ち抜くためのメンタルとか、11人じゃなくて23人全員で戦わなきゃいけないということを教えてくれたんですけれど、その意味を今になってようやく、全員が身に染みて感じている」と話し、第2戦の終了直後から急速にチームが結束していることを明かした。従来の主力でも、若手でもいい。そうした雰囲気ができたことで、メンバー変更によるチーム力の低下は避けられた。

第2戦までとは大きく違った韓国戦

 覚悟も決まった。中国との初戦で痛恨のPKを与えてしまった川辺は「ここまでの2試合で、自分は何もしていない。今日、試合会場に来たとき、もしかしたら、このメンバーで戦うのはこれで最後かもしれないと思った。でも、そう考えたら、もうやるしかないし、終わりたくないと思った」と決意。

 試合では、少々無謀でも球際にはすべて突っ込んだ。思い切りのなかった第2戦までとは大きな違いだった。韓国戦で急きょ先発起用された内山も、完璧な内容というには程遠かったが、最終ラインに入って来たボールに対して積極的にアタックすることだけは終始譲らず、韓国が得意とする競り合いで戦い続けた。

 第2戦までとの違いは、ミスを恐れることで可能性のあるプレーを辞めてしまう場面がなくなったことと、ミスをしてもカバーする意識が全員にあったことだ。今までの調子なら、FWで起用された北川航也(清水エスパルス)が本調子でなかった韓国戦は散々な結果に終わっただろう。しかし、関根や先発復帰した金子が果敢なドリブルを見せて生き返り、影響は軽減された。

 一時は同点に追いつかれる苦しい展開だったが、韓国戦はエース南野の2発で劇的な勝利を収めた。くさびへのアタックを徹底した内山がいなければ、終盤の韓国のパワープレーはもっと怖かった。CBを組む中谷が積極的に飛び出して広範囲をカバーしたことで、内山のチャレンジは生きた。若手の活躍で首の皮一枚つながったチームは、瀬戸際でアグレッシブさを取り戻し、強敵撃破に成功した。

育成年代の日本代表がぶつかる壁

 近年の育成年代の日本代表は「うまくなった」が「弱くなった」と感じる。このチームも追い込まれなければ力を発揮できなかった点では、やはり弱さが見える。しかし、今回の韓国戦での勝利、そしてグループリーグの勝ち抜けには、弱さから脱却するヒントが隠されているようにも思う。

 理想を100パーセント実現することばかり考えるのではなく、50パーセント程度に押さえられても勝つ力強さも求めていかなければならない。この大会は、まだ最大の山場にして鬼門とも言える準々決勝(17日、対戦相手未定)が残っている。3大会連続で阻まれた壁を突破しなければ、ここまでの戦いも成功への軌跡とはならない。何としても4大会ぶりのアジア突破を果たし、この勝利と勝ち抜けを今後の上昇の道筋として示してもらいたい。今のチーム状態ならば、これまでは難しかった本領発揮にこぎ着けられるはずだ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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