植田と岩波、好対照な個性を持つ大型CB 再結成したコンビが見せたそれぞれの成長

川端暁彦

U−17W杯でもコンビを組んでいた

岩波(写真)は早くから将来を嘱望されていた。植田とはU−17W杯でもコンビを組んでいる 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 そんな植田とコンビを組む岩波は、早くから将来を嘱望された選手だった。中学時代にはヴィッセル神戸U−15の選手として全国制覇を経験。吉武博文監督率いるU−16日本代表(通称“94ジャパン”)では中心選手として見込まれ、植田が遅れてメンバー入りしてきたときすでに、岩波はチームの大黒柱だった。

 大型CBながら足元の技術は高く、ロングフィードの質は群を抜く。同世代に比肩する選手の見当たらなかった岩波にとって、植田が現れたことは一つの幸運だったかもしれない。意識し合い、高め合うライバルとして、2人は競い合って伸びてきた。岩波と植田のコンビを擁して臨んだ11年のU−17ワールドカップを前にして、「今回のU−17日本代表ってどんなチーム?」と問われると、私は決まって「両CBが売りのチームですよ」と答えていた。聞いたほうは「日本の特長がCB?」と首をかしげたものだが、試合を見れば自然と納得してくれた。

 それから3年、岩波と植田のコンビはアジア大会にて「再結成」となった。2人ともJ1の上位クラブでレギュラーの座をつかみ、それぞれの成長を遂げた。岩波もまた、熱血漢であり守備には独特のこだわりを持つ安達亮監督の薫陶(くんとう)を受けて、十代のころとはちょっと違う強さを身に付けた。

「球際」の強さを身につけたスマートな岩波

スマートなプレーが身上だった岩波だが、アジア大会では球際の強さも見せた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 植田ほど図抜けた身体能力を持つわけではない岩波は、スマートに守るプレーが身上だった。だがトップレベルの戦いにおいては、それだけでは足りない世界がある。それを痛感した上で積み上げてきた成果が出たのがアジア大会の韓国戦だった。

 試合前、自分自身で強調していたのは「球際」。そこで戦い切ること、そして勝つことを胸に刻んで臨んだこの試合、岩波のプレーは出色だった。激しく当たり、眼前の敵をまず潰しに行く。研ぎ澄まされた集中力と旺盛な闘争心は、確実に韓国FWを圧倒してもいた。それでいて、植田がやらかした直後に「お前のミスは計算済みだ」と言わんばかりにゴールのカバーに入って失点の危機を救うなど、沈着さも健在。この試合のMOM(マンオブザマッチ)を選べと言われたら、私はためらいなく岩波を推す。そのくらいのプレーを見せていた。

「球際の強さは、今日は韓国と言うこともあってすごく個人的に意識して入った」。試合後にそう語った岩波は、「あの韓国を相手にこういう戦い方をできた」とポジティブに言葉を並べた。負けは負けだが、少なくとも個人としては確かな収穫を得た試合だったということだろう。ただ、韓国戦の出来が「特別」だったことは、「そういうのを毎試合毎試合続けないといけないと思う」と本人が認める通り。ただ、手倉森誠監督が「しぶとく泥くさく守る覚悟というのは、この年代の選手たちに付いてきた」と語った言葉の対象の一人が、岩波であったことは想像に難くない。

リオ五輪代表も「両CBが売りのチーム」へ

 岩波と植田という好対照な個性を持つ大型CB。この2人が中澤佑二と田中マルクス闘莉王のような、あるいはそれを超越する最強のコンビになっていけるかはまだ分からない。選手にはネガティブな方向を含めた多様な未来が必ずあるからだし、単純にこの世代には他にも良いCBがいるということもある。

 ただ、この2人が脱皮して、もうワンランク上の選手へなっていく。その道筋は見えた大会だったと言えるのではないだろうか。ここからリオ五輪に至るまでの時間は、2年弱。その舞台を前に「リオ五輪代表ってどんなチーム?」と問われたときに、自信を持って「両CBが売りのチームだよ」と答えることができる。そんな近未来くらいは見えてきた、アジア大会だった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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