“手倉森イズム”を感じたラウンド16 威信を懸けてくる韓国戦の勝機と重要性
今後につながる控え選手の活躍
75分に見事な抜け出しから3点目を決めた途中出場の荒野は、持ち味を存分に発揮した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
「2−0は危険なスコア」なんて言われ方をすることも多い日本サッカー界だが、冷静に時間を使い、リスクを避けていけば点差相応にセーフティーなスコアではある。選手に「柔軟性」を強く求め、戦況に応じて戦い方を変えられるチームを目指すとしていただけに、慌てず騒がぬ我慢の時間を作った選手たちを頼もしく感じたのかもしれない。「そういう柔軟性を求められるのって僕は初めてなので、非常にやっていて楽しい」と原川が言ったように、選手たちも監督の要求に応えようという姿勢がある。U−21日本代表は、大会を戦いながら寄せ集めではない、“チーム”としての骨組みができつつあるようだ。
“チーム”といえば、75分に交代出場のFW荒野拓馬(コンサドーレ札幌)が見事な抜け出しから奪った3点目は小さからぬ意味があるかもしれない。大会が長くなってくると、レギュラー組とサブ組の温度感に差が出てくるのはある種の必然であって避けられない部分もあるのだが、その差が強くなり過ぎたチームは、やはり勝てない。イラクに敗れてグループリーグの第3戦を「ガス抜き」に使い損なった日本にとって決勝トーナメントに向けた一つの課題はここだった。
脅威の乏しい相手に対して2−0で迎えた終盤で、日本は主力を休ませる意図も含ませながらの交代策を敢行した。ここで出場機会のなかった荒野のような選手が“しょっぱい”プレーを見せるようだと、ここから先の試合でいよいよカードを切りづらくなるし、ムードまで悪くなってしまうもの。だが荒野はゴールという結果を出しただけでなく、献身的に惜しみなく戦い、周囲を巧みに生かすという“荒野らしさ”もキッチリと表現してくれた。手倉森監督は、控え選手に対して「自分で自分のことをサブだと思っている奴はずっとサブになってしまう。自分のことをサブだと思わないでやってくれ」という話をしていたそうだが、荒野が表現したのはまさにそういうプレーだった。荒野の得点に続いて82分には原川の追加点も生まれ、最後の交代カードも出場機会のなかったMF吉野恭平(広島)を投入するという形で使うことができた。試合の締め方としては、かなり理想的だったかもしれない。
準々決勝は開催国の韓国
「韓国とやりたい」と常々強調してきた手倉森監督(右端) 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
「韓国とやりたい」。そう断言してきたのは、他ならぬ手倉森監督だ。「アウェーの環境で韓国とやる経験値」の重要性を強調してきた指揮官にとって、このカードは願ってもないものであり、「ここで韓国と当たるのは最高」とまで言ってのけた。
冷静に五輪のアジア予選を考えても、対韓国の経験値は積み上げておきたいところ。「この年代はイラクに常に準々決勝でやられていたわけですが、今回はこの年代が当たったことのなかった韓国と当たる。アジア予選に向けて良いシミュレーションですし、勝てば自信になる」。日本の監督はそう語ってニヤリと笑った。
韓国は、個人能力でいえば大会最強だろう。ただ、急ごしらえのチームゆえの弱さも見え隠れする。最大の脅威となるはずだった198センチFWキム・シンウク(蔚山現代)も故障を抱えて出場していない。そう簡単に勝てる相手でないのは確かだが、「絶対」はないのがサッカーであり、手倉森監督はそうした番狂わせを演じることに喜びを感じるタイプの指導者だ。そして、彼が作ってきたのは相手の強さや戦況に応じて戦い方を変化させる柔軟性を持ったチームである。
韓国との準々決勝は、手倉森ジャパンにとって一つの集大成というべきゲームとなる。