鈴木亜久里が語る「フォーミュラE」 例えるなら競輪、数年後は別次元の速さ
全戦ストリートコースのEVレース
動力源はガソリンから電気へ。新時代のフォーミュラレースがついにスタートする。写真はアムリン・アグリ 【Formula E】
日本からは、鈴木亜久里氏が代表を務める「アムリン・アグリ・フォーミュラEチーム」が唯一参戦する。その亜久里氏に、開幕2週間前、スーパーGTが開催された鈴鹿サーキットで話を聞いた。インタビューは本稿後半にお届けするとして、まずは「フォーミュラE」について説明しておきたい。
記念すべき初年度の開幕戦は、中国・北京のオリンピックパーク(鳥の巣)周辺のストリートコースが選ばれた。このフォーミュラEは、モーター駆動ということもあり、騒音問題が発生しない。そのため、レースの魅力をよりダイレクトに伝え、かつ交通アクセスの良い場所として、全戦ストリートコースが選択されている。これは従来のモータースポーツではあり得ないこと。確かに、F1モナコGPのように、国が直接関与して開催を実現しているレースもあるが、他のストリートコースと呼ばれるコースも、そのほとんどが普段は公園であったり、あまり使われていない場所が多い。実際の公道を閉鎖するケースはまれだ。
その点、フォーミュラEならば、周辺自治体と道路使用の許可さえ取れればレースが実現する。街全体で行われる大規模なフェスティバルなどと同等のハードルでレースが開催できるわけだ。実際に米国のマイアミや、ドイツのベルリン、英国のロンドンなど世界10都市が開催地として予定されている。
注目はドライバーのマシン乗り換え
開幕戦は中国・北京、オリンピックパーク(鳥の巣)周辺のストリートコースで行われる。世界10都市、すべてストリートコースでの開催 【Formula E】
次に参戦チームを見ると、初年度は全10チーム、20名のドライバーを予定している。チームの国籍を見ると、スイス、中国、米国、フランス、ドイツ、インド、英国、モナコ、そして日本とかなりの多国籍だ。ドライバーも女性ドライバーが2名参戦するほか、アイルトン・セナの甥であるブルーノ・セナやアラン・プロストの息子であるニコラス・プロストが参戦。元F1ドライバーもズラリと並ぶことから、往年のF1ファンからも注目が集まりそうだ。ちなみに、開幕戦には佐藤琢磨がアムリン・アグリのドライバーとして急きょ参戦することが発表された。
肝心のレースは、土曜日だけで開催されるワンデーイベント。フリー走行は60分を1回のみ。予選は90分あるが、5台ごとのグループに分かれ、アタック中のクリアラップが取りやすく配慮されている。予選周回数も4周に制限されていて、実際にドライバーがアタックできるのは2周のみ。決勝レースは最大60分。バッテリーの消費を避けるためにフォーメーションラップはない。
そして、最大のポイントであり注目なのが、レース中、ピットイン時にマシンを乗り換えるということ。これは現状のバッテリーでは60分をフル走行できないため、マシンを2台用意し、ドライバーがマシンを乗り換えるのだ。この乗り換え時間に手間取れば、F1のタイヤ交換ピットストップ以上に大きなタイムロスとなってしまうことは想像に難くない。バイクレースのMotoGPでは、マシン乗り換えなども以前行われたことがあるが、またがるだけのバイクと違い、どんなピットイン風景になるのかは、今から注目したい。
インターネット投票による“ファンブースト”採用
次世代レースを打ち出すため、新たな試みも。 オーバーテイク時の5秒間フルパワーの権利は、インターネット投票で決められる 【Formula E】
その1つが“Fan Boost(ファンブースト)”。これは、インターネットでドライバーの人気投票を行い、その上位3名にオーバーテイク時に5秒間フルパワーを使える権利が与えられるもの。この上位3名は決勝レース20分前に発表される。当初は、レース中にSNSなどを利用して、ゲームのマリオカートなどのように、ドライバーにオーバーテイクできる権利を与える構想もあったが、それはまだ現実的ではないと判断されたようだ。
すべてが初めてとなるフォーミュラE。果たして、どんなレースとなるのか。それは今週の土曜日になればすべて分かることだが、チーム関係者はフォーミュラEにどんなことを期待しているのか。亜久里氏が描くフォーミュラEの未来とは?
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