継続的な海外経験で若手に出始めた成果=日本陸連・山崎一彦強化育成部長に聞く
地域毎に異なる大会スケジュールが課題に
山崎氏は今後、若手世代により多くの海外経験を積ませる意向だ 【提供:日本陸上競技連盟】
陸上競技の強みと弱みを全部挙げてみて、その中で、50年前の東京五輪までさかのぼって、今まで僕たちが何をしてきたのか、問題点などをすべて洗いざらいにしました。そうして整理していくと、5つぐらいになったということです。
――以前、「強化情報戦略」を日本陸上界の弱点の1つに挙げていましたが、具体的にはどういったことでしょうか?
陸上競技は、競技分析やトレーニングなどの科学的なものをすごく得意にしています。大学の研究者に陸上出身の方がすごく多いんです。ただ、その情報を精査して、共有していくことに課題がありました。だから、そこをやっていきたいという思いがあります。
――強化育成をする上での課題を教えてください。
挙げるときりがないのですが、ひとつはスケジュールの問題ですね。インターナショナルとアジアのスケジュールがまったく違うんです。気候が違うこともあって、アジア大会の時期が遅かったりします。
アジアと日本のスケジュールもまた違うんですよね。(日本では)学校対抗の試合が多く、そのスケジュールの中に強化の試合を入れる状態になっています。(国際大会で)メダルを取ったり入賞する選手は恐らく数パーセントの人たちなので、どうしても人数が多い方が優先される。そこに少しジレンマがあります。
おそらく強化というのは、陸連が合宿をして強化するのではなく、インターナショナルに合わせて、皆が海外に行きやすいようにしてあげないといけないのだと思います。強化情報戦略というのはそのひとつで、どんどん発信していかないとそれができない。たった数名のためですが、メダルを取るにはその数名のためにやるしかありません。それが進まないのが現状だと思います。
アジア大会を若手の経験の場に
今回選んだ選手の中には高校生もいますので、そういう選手たちには早く世界を見てほしいです。若いころにいろいろな世界の経験をしてからトレーニングをした方がいい。結果よりも、そういう経験をして、「自分たちが代表なんだ」という自覚を持ってほしいですね。次の世界選手権や五輪では、絶対にそういう枠は作れません。標準記録がないアジア大会でしかできないので、今回、作ることにしました。
テストケースというか、今年の世界ジュニア選手権で活躍した選手は、実はその前に世界室内選手権や世界リレーなどに出ていました。ちょっと代表には満たないけれど、シニアと連携して出してもらって。世界ジュニア選手権では、そういった選手がすごく活躍していて、例えば、男子4×400メートルリレーではジャマイカに勝って2位に入りました。彼らがすごく落ち着いてやってくれて、雰囲気もとても良かった。やはり早くに経験してリーダーとしてやってくれる人が増えてほしいなと思います。
――この世代が飛躍していく上でライバルになる国は?
一番近いのはやはり中国ですね。アジアではもちろん陸上大国ですし、世界で見てもメダルを確実にとってくる国なので。同じアジアで頑張っている国なので尊敬はありますし、追いつかないといけないなと思います。向こうのほうが行動は早いので、日本もそれに負けないようにしたいですね。また、それぞれ種目が違うので難しいですが、ヨーロッパは陸上競技としての文化も深いので、(日本も)そういう深さを、五輪を機につけられたらと思います。
――東京五輪の主力となるU−19は今後、大学に進学して世界レベルでの経験が減ってしまいます。アジア大会での推薦枠以外には、どのような試みを考えていますか?
最初に話したように、今のU−23の選手たちにやったことを、もう少し拡充してやりたいですし、早くひとり立ちできるようにさせたいですね。海外経験をどれだけ積むかが大事になるので、個人や数名で、しっかり海外を経験させるのに予算をつけたいと。早く、一人でも多く、ワールドワイドにやれる選手を育てていきたいと思います。