八重樫東との大一番に挑むロマゴンの強さ=39戦無敗の軽量級最強ボクサーとは!?

船橋真二郎

華麗さと破壊力を兼備したコンビネーション

昨年11月には八重樫が判定勝ちしたオスカル・ブランケットを2ラウンドで一蹴したゴンサレス 【t.SAKUMA】

 中米ニカラグアの首都マナグアに生まれ育ち、10歳のときにボクシングを始めた。12歳になったころ、母国初の世界王者にして唯一の3階級制覇王者である英雄アレクシス・アルゲリョの教えを受けたこともあり、そのスタイルに傾倒していったという。なるほど、長身痩躯のアルゲリョ、小柄なゴンサレスと、体型の違いから印象は異なるものの、根底に流れるリズム感に通じるものがあると感じられる。
「チョコラティートの速くて、強くて、たくさんのパンチをお見せする」は、ゴンサレスの決まり文句だが、特に流れるような華麗さと破壊力を兼ね備えたコンビネーションは両者の共通点だろう。

 ゴンサレスの公開練習を見るたび、いつも感心させられるのがシャドーボクシングだ。上体の余計な上下動がほとんどなく、滑るようにキャンバスを動き回り、両の拳を多彩な角度から繰り出し続ける。打ち出しは小さく、フォロースルーのしっかり利いた強打を次から次とつなげられるのは、このバランス感覚があるからか、と納得できた。

 ゴンサレスのプレッシャーは一見、緩やかだが、位置取りの巧みさに加え、上下によどみなくつながるパンチの一つひとつが強力だから、対戦相手は後退し、連打の波にのみ込まれてしまう。そうして相手の心身を着実に削り取り、最後はきっちりフィニッシュする。それがゴンサレスの基本的なパターンだ。

フライ級での王座獲得が真の最強への道

 しかし、ゴンサレスが真の軽量級最強を証明するのは、フライ級で世界戦線への第一歩を踏み出すここからだろう。ライバル候補は、ライトフライ級王者時代のゴンサレスを苦しめたWBA“スーパー”王者でWBOとの統一王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)を筆頭に、日本の井岡一翔(井岡)、井上尚弥(大橋)も含めて数多くいるが、その一番手として、まずは3度防衛中のWBC王者・八重樫が立ちはだかることになる。

「とても一生懸命に戦い、非常に我慢強い」
 それがゴンサレスの日本人ボクサー評。あながち社交辞令とも言い切れないと思うのは、数少ない6つの判定勝利のうち、3分の1に当たる2つまでが、日本の松本博志(角海老宝石)や高山勝成(真正=当時)が相手だったからであり、クールな新井田がそれまでにない熱さを見せたからでもある。いくつもの激闘や苦境を乗り越えてきた強靭な精神力は八重樫の最大の武器であり、接戦に持ち込めば持ち込むほど、勝敗を分ける要素にもなってくる。八重樫の勝機はきっと、その先にある。

3階級制覇は果たさなければいけない約束

 だが、今回のゴンサレスには特別な思いがある。新井田に挑戦する前、特別コーチとして再び指導を仰いだアルゲリョは、それから10カ月後の09年7月、高山とのWBAミニマム級王座3度目の防衛戦の直前、57歳で急逝した。3階級制覇を成し遂げることは、敬愛してきたアルゲリョの記録と肩を並べることにもなる。昨年11月、新井田戦の前と同じように、直前に八重樫に挑み、判定まで持ち込んでいたオスカル・ブランケット(メキシコ)を2回TKOで一蹴したゴンサレスがこう語っていた。
「3階級制覇という目標はアルゲリョとのプロセスの中で生まれてきたもので、ミニマム級で王者になったときからの夢だった。神様のおかげで私は今、彼と同じ道を歩もうとしている。これは果たさなければならない約束だ」

 その思いは「(八重樫との試合は)とてもタフで難しい試合になると覚悟している」というゴンサレスの支えとなるだろう。信心深い彼の言葉を借りるなら、最後に神様が許したほうの手が上がるということなのかもしれない。
 すべては9月5日、東京・国立代々木競技場第二体育館で答えが出る――。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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