W杯の失敗をいかにして未来へつなげるか 選手、協会、Jリーグに望むこと<後編>

元川悦子

W杯に出場した選手に課される仕事

権田(左)、酒井宏(中央)は出場機会こそなかったが、次の世代にこの経験を伝えていくことが望まれる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 日本はブラジル大会を含めて5回のW杯出場を果たしたが、これまでの経験と財産がすべて現在に生かされているとは言い切れないところがある。実際、今回のザッケローニ監督の4年間を逐一、分析・検証し、チームマネジメントの是非を問うような大掛かりな試みが始まる形跡もない。Jリーグでプレーする複数の選手たちが「1998年に(フィリップ・)トルシエ、02年にジーコ、06年に(イビチャ・)オシムさん、10年にザッケローニとそれぞれの監督が就任するたび、代表強化の方向性や目指すべきサッカースタイルが微妙に変化してきた印象が強い。もっときちんとした検証をして、過去の経験を生かしていかないといけない」と現状を深刻に受け止めているのだ。

 だからこそ、今回のブラジル大会に参戦したメンバーには、この経験を将来に引き継ぐ主導的役割を果たしてほしい。「Jリーグの代表としてW杯に来た」と公言していた青山敏弘も「僕らが高い意識を持ってピッチ上で表現していくしかない」と貴重な生き証人としての責任感を口にしていた。

 ピッチに立つ機会こそなかったものの、12年ロンドン五輪4位の実体験している権田修一も強い自覚を持つ1人である。

「五輪の時はそれが終わってすぐにA代表に合流することになったんで、あまり自分たちがやってきたことを振り返る時間がなかったけど、今回は帰国便に乗って日本に戻り、天皇杯のゲームが始まるまでだいぶ時間がありましたし、いろいろ落ち着いて整理できた。自分は岡田さんの時は1試合呼ばれただけだったけど、ザッケローニ監督の4年間はずっとチームにいた。その過程でどこがチームのストロングポイントなのか、ウイークポイントなのかを実感してきたし、その時々の雰囲気も分かった。そういう1つひとつを先へつないでいかないといけないと思います。

 これまでの日本は決勝トーナメント進出の次がグループリーグ敗退という繰り返しになっているけど、監督が代わってすべてゼロからスタートすることではないと思う。新しいチームが始まればメンバーも変わるでしょうけど、今回の経験を踏まえてもう一段階上を目指すためにも、次に残る若い世代がやってきたことを引き継いでいけたらいい。もちろん自分はまずそこに入れるように頑張ることが第一ですけどね」と彼は自分たちに課せられた仕事をよく理解している。

 権田はロンドン五輪で4位という好結果を残す原動力になった後、協会の原専務理事らに「ピッチ上で何を感じたか」を聞かれる機会があったという。例えば、そういう選手に対するヒアリングを組織的かつ継続的に行って、将来に役立つデータとして蓄積していくことはできないだろうか。

サッカー界が発展するために

アギーレ新監督には、ブラジルで直面した課題や収穫を生かしたチーム作りが求められることになる 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 前編に書いた通り、W杯の舞台に立った選手たちは、コートジボワールやコロンビアといった強豪国と対峙(たいじ)することで、Jリーグや代表レベルの親善試合とは違った球際の強さや相手のパスワークのうまさを実感している。大会前の準備や本番の時の過ごし方についてもさまざまな感想を抱いている。それを1つの大会の戦いに参加した選手だけのものにとどめるのではなく、Jリーグなどサッカー界全体が共有し、日本としてどうしていくべきかを考える材料にしなければ、今後の発展は難しい。

「今回、ドイツが優勝したのも、代表と国内リーグがうまくリンクしているからじゃないかと思いますね。次の(ハビエル・)アギーレ監督がどういう考えを持っているかまだ分からないけど、情報は嫌でも僕ら選手に聞こえてくる。それを頭に入れながら、クラブで地道にやっていくことが、チームと代表両方の強化につながるんじゃないかと思います」と今野も神妙な面持ちで語っていた。

 ブラジルでの惨敗をひしひしと受け止めている選手たちの声に、協会やJリーグはぜひ耳を傾けてほしい。そして、ブラジルで直面した課題、得た収穫をより多くの人々が考え、議論を続けていくような機運を高め、サッカー文化を構築していくように仕向けてもらいたいものだ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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