この夏、北信越勢が熱い…躍進の理由は? 高校野球界で影薄い地域が進化遂げる

楊順行

先進県から吸収した成果、名前負けも払拭

日本文理は飯塚(右)が4連続完投で準決勝へ。09年夏の準優勝を見た世代が全国制覇を目指す 【写真は共同】

 そして――12年夏まで、新潟明訓を率いていた佐藤和也監督(現・新潟医療福祉大)の話。

「高速網の整備などで、関東圏まで日帰りで遠征できるようになった当時の新潟は、確かにレベルが低かった。遠征でコテンパンにやられ、うなだれて帰ったものです。だけど頻繁に交流し、年月が経つうちに高いレベルの野球を学び、先進的な戦術を吸収していった。頻繁に接していれば名前負けしなくなり、監督時代の最後の方には、関東の甲子園常連校と練習試合をしても、対等以上に戦えました」

 そういう地道な活動が実を結び、高校の前段階として、中学の硬式野球組織・シニアリーグは、97年には県内で4チームだったが、現在は14チームに増えている。

 実はこんなあらましを、『強くなるのはこれからだ』と題して、08年にある雑誌に寄稿した。手前みそだが、その翌年夏、日本文理が新潟県勢として初めての準優勝を果たすのである。ただ新潟の躍進を、30年以上も前に“予言”した人がいた。松井秀喜を育てた、星稜の山下智茂前監督だ。上越新幹線や関越自動車道の整備で、新潟は関東への遠征が容易になる。早くから近畿や東海圏への移動がたやすかった石川、福井のように、野球先進県に学ぶ機会が増えていくから――というのがその理由だ。

 狭くなった日本で、先進的な野球に触れるチャンスが公平になった。また高度に情報化された社会は、先進的な知識の共有を可能にし、さらにはかつてなら尻込みしていた相手に対しても、根拠のない名前負けを払拭(ふっしょく)した。北信越の高校野球界は、時期の早い遅いはあっても、先進県から吸収することで力をつけてきたというわけだ。付け加えれば、「雪に閉ざされる冬場、各県の指導者がいろいろと工夫して練習してきた成果もあると思います」(星稜・林和成監督)。

強化の証しは地元出身選手の多さ

 そして今年に関していえば、日本文理に新潟明訓、富山商に高岡商、星稜に小松大谷……と、各県の代表校に好投手を持つライバルが多くいたことも、切磋琢磨(せっさたくま)のアクセルになっただろう。何より強化が実っているのが顕著なのは、この夏の北信越の各県の代表チームは、ベンチ入り18人のうち、それぞれの地元出身選手が多くを占めているということだ(関連リンクの「甲子園球児に見る出身地と出場校の関係」を参照)。私立高校に県外選手がいるのは時代の流れだが、日本文理が準優勝したときには、県外出身者はわずか1人だったのだ。現在いる5人の県外出身者にしても、9回二死から6点差を1点差に追い上げた、あの09年夏を見て門をたたいた世代だし、敦賀気比にしても、エースの平沼は福井出身である。

 かくして――大会前、甲子園の通算勝利数が最下位だった新潟は、現時点で福井とともに4勝を加えたし、石川、富山もプラス2勝。勝利数の順位に大きな変動はなさそうだが、もしかしたら、北信越勢の決勝対決ということまでありうるのだ。どうですか、この躍進。東京六大学リーグで48勝という最多勝記録を持ち、バルセロナ五輪では監督も務めた山中正竹氏は言う。

「もう、俺は必要ないかもね」

 ちなみに氏は、11年から富山県野球協議会のアドバイザーを務めている。その富山は昨年夏、富山第一が40年ぶりの8強に進出し、この夏も、日本文理に敗れはしたものの、2勝して3回戦進出を果たしている。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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