ユン監督の電撃解任の真相に迫る サガン鳥栖が目指す方向性と“プロセス”
遅かれ早かれ契約は解除になっていた
吉田新監督の初陣は広島に敗戦。最後までチームの持ち味である「ハードワーク」を出せなかった 【写真は共同】
事実、ある関係者はユン前監督と選手の間に微妙なズレが生じていたことを明かしている。
指導メニューをこなすためには、選手へのアプローチも大事な要素。「選手へのアプローチ、身体関係、勝利での評価などクラブとの相違がみられた」と永井強化部長がコメントしたことで、前述の関係者のコメントに真意が加わる。
早朝からの3部練習や小山の階段での走り込みなど、ハードワークするためには必要だったかもしれないが、結果が出たからといって肯定される指導メニューだったとは考えにくい。もう少し、練習メニューなどに説明やフォローがあればよかったのかもしれない。
また、固定メンバーで試合に臨み結果を出してきてはいたが、それ以外の選手へのアプローチが不足していたのだろう。永井強化部長の言葉は、現場で起きた小さなあつれきがあったことをほのめかしているようである。そんな中で、“タイトルの先にあるクラブ”のビジョンを監督と話さなければいけない時期に来ていたのは事実で、タイトル奪取が現実のものになりつつあるからこそ「ブラジルワールドカップ中断期間中から話し合いを持った」(永井強化部長)のである。
クラブの将来に向けた話し合いの中で、現場を預かる監督としては無責任なことは語れない。ましてや、責任感が人一倍強く、負けん気の強いユン前監督のことである。あるべき論や要望を簡単に口にする人ではない。将来に向けた歩みを始めているクラブと監督との間に、『プロセスの違い』があってもおかしくはない。ここが埋まらずに「結論は早い方がいい」(永井強化部長)ということになったのではないだろうか。
「戦術、補強などでの決裂ではない」と永井強化部長は明言した。ユン前監督と選手の微妙なズレ、そしてビジョンを達成させるための時期と手段に相違があって、この時期の契約解除となったようである。リーグ戦首位ということを除けば、遅かれ早かれ契約は解除になっていただろう。サポーターには理解しがたい事実ではあるが……。
今後も変わらぬ鳥栖スタイル
「監督としての実力不足」と吉田新監督は自らを責めたが、広島との対戦ではこれまで苦戦してきていたのも事実で、ユン前監督だったら勝てたのかどうかは分からない。
得意とするワイド攻撃を広島のサイドMFに蓋をされては、今の鳥栖ではそこを崩すだけの引き出しが少ないのも事実。先制された後半にシュート2本しか打てなかったことは、今後の課題として突き詰めていかなければいけない。首位を走るチームにとって、相性の悪さや苦手なスタイルをさらしてしまうことは絶対に避けたいところ。この部分を吉田新監督は担っていると言っても過言ではない。
「今までのサッカーをベースとして、これまで以上のサッカーを全員が一丸となって……」と永井強化部長は語っている。今までのユン前監督のサッカーを継続しつつも、吉田新監督のエッセンスをどこに示すのかが問われた一戦でもあったわけである。
敗れはしたものの、そのワイドからの突破を試みるために、早坂良太や谷口博之といった起点を作ることも自ら突破もできる選手を、ドリブラーの金民友、水沼宏太に代えて起用した。ヘディングの強さを生かして金井貢史も最後のカードとして切った。終了間際のコーナーキックでは、GK林彰洋までもが広島ゴール前に攻め上がった。
同じような交代カードでも、そこに吉田新監督の意図は見えた。選手それぞれの特徴とストロングポイントを、戦術の中でつなげていく作業がこれからも続く。天才パサーとしてのユン前監督の志向したサッカーに、ディフェンス出身で冷静な吉田新監督の意図が加わることで、鳥栖はさらに強固になると信じたい。
現状の継続で結果を得られるのであれば、そのまま続ければいいと思うのは後退に近いものがある。相手も鳥栖を研究し、打ち勝つための作戦を講じてくるからである。
鳥栖が本気でタイトルを取るための一つの手段としての今回の監督交代ならば、前向きな交代とみることができる。首位から陥落したり、連敗が始まってからの交代では手遅れとクラブが下した判断。その判断が正しかったのか、クラブのビジョンは達成されるのか……そこを見極めるためには、もう少し時間が必要だ。