香川の現状は“補欠合格通知待ち” 残留か移籍、ファン・ハールの決断は?

寺沢薫

「プレーは悪くないが……」という論調

10番のポジションでもプレーした香川(中央)。「プレーは悪くないが……」という論調がつきまとう 【写真:Action Images/アフロ】

 そして、「10番」の席を用意されたのが、インテル戦、レアル・マドリー戦、リバプール戦の3試合。この3戦の合計出場時間は94分間。約1試合分という短い時間の中で、香川はどれほどファン・ハールにアピールできたのか。

 後半開始から出場したインテル戦では、さしたるインパクトを残せなかった。『ミラー』は「インテル戦の勝者と敗者」という記事で、香川を同じ後半組のナニとともに「敗者」に分類し、こんな寸評を載せた。

「悪くないプレーを見せたが、チームには10番が多すぎるため、香川は蚊帳の外に思える。香川ほどのクオリティーを持つ選手がそれを発揮するチャンスをもらえないのは残念だが、移籍することが、彼にとってもクラブにとってもいいことかもしれない」

 続くレアル・マドリー戦は、62分からマタとの交代で出場。同時にピッチインしたハビエル・エルナンデスのゴールを見事にアシストした。後に『デイリーメール』は全選手を「先発/メンバー入り/放出」に分類する記事を掲載したが、その中で香川は控えにあたる「メンバー入り」に振り分けられ、こんな評価が寄せられた。

「デイビッド・モイーズに起用されずいら立ちを募らせた香川は、間違いなく攻撃の才能を披露すべく必死。今夏の彼のベストシーンは、レアル・マドリー戦でエルナンデスのゴールをお膳立てしたクロス。彼の実力の片鱗を垣間見た。さらに、彼のユーティリティー性がファン・ハール戦術における財産になる可能性も。ただ、ドルトムントは彼の復帰を期待しているというが……」

「プレーは悪くないが……」という論調は、この2年間でずっと香川につきまとうフレーズだ。時折見せる輝きにポテンシャルは感じさせるものの、レギュラーとして、エース格としては物足りない。それが客観的な香川の印象だ。だからこそ、評価も割れる。上記2つの記事は、香川の実力自体は評価した上で置かれた立場を示した内容だが、一方で「ユナイテッドでの将来はない」という手厳しい論調もある。

残留なら中盤の“便利屋”が濃厚

残留なら「10番」と「6番や8番」のサブとして、中盤の“便利屋”が濃厚となる 【写真:Action Images/アフロ】

 ファン・ハールは「プレーできる見通しが少ないなら、移籍のチャンスを与えなければいけない」と話し、ICC終了後に選手個々の評価を伝え、構想外の選手には移籍を勧めると明言している。その発言を伝える各紙記事の中で、香川はエルナンデス、マルアン・フェライニ、ウィルフリード・ザハ、ナニ、アンデルソンらとともに、ほぼすべてのメディアに「審判を待つ身」として名前を挙げられている。『インデペンデント』の見出しは、「ファン・ハール、フェライニ、香川、エルナンデス、ナニを放出へ」。『テレグラフ』や『デイリーメール』の別記事でも似たようなメンツが挙げられ、「彼らはこの夏に放出されるだろう」とまで言われている。

 実際、香川が望むトップ下にはマタがいる。ローマ戦、リバプール戦でゴールという結果を残した彼は、間違いなく現状のファーストチョイスだ。米国ツアー後から合流するアドナン・ヤヌザイや、ルーニーに新加入のエレーラもトップ下でプレーできるため、2番手かと言われるとそれすら確かではない。

 それでも、ファン・ハールが補欠合格を告げたなら、「10番」と「6番や8番」のサブとして“便利屋”を演じながら虎視眈々(たんたん)とチャンスを待つのが現実的な選択肢だ。だが、チャンピオンズリーグもヨーロッパリーグもない新シーズンは出場機会が大きく制限されることは必至だろう。

「落選」のほうが幸せな可能性も……

 残酷な言い方かもしれないが、ファン・ハールからハッキリと「落選」を告げられ、早めに移籍先を探す方が幸せになれる可能性もある。現時点でうわさに挙がっている移籍先はドルトムントとアトレティコ・マドリー。古巣ドルトムントに関してはもはや英国メディアの定番ネタと化しており現実味が薄く、エルナンデスとのダブル獲得を狙うと報じられたアトレティコ・マドリーにしても、サンティ・カソルラ(アーセナル)を狙っているという報道もあり、移籍が実現するかは不透明だ。それでも、マンチェスター・ユナイテッドで主役を目指すなら、待っているのは茨の道。もしその道をくぐり抜ければさらに上のレベルに到達できるのは間違いないが、最も想像がつくのはベンチを温め続ける日々だ。

 果たして、ファン・ハールが香川に下す決断はいかに。そしてそのとき、香川が選ぶ道は――。もし茨の道を歩むなら、日本代表の10番にとって、キャリア最大の勝負に挑むこととなる。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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