“メッシ後”のアルゼンチンに残るもの 若手の人材不足に、問題先送りのAFA

遠ざかる国際タイトル

アルゼンチンはメッシの存在を頼りに、世界の舞台で高みを目指してきたが…… 【写真:アフロ】

 ペケルマンが指摘していた通り、アルゼンチンの若い世代は07年のU−20W杯優勝を最後に、国際タイトルと縁がない状況が続いている。同大会の中心選手は30歳前後で18年のW杯を迎えるセルヒオ・ロメロ、セルヒオ・アグエロ、エベル・バネガ、ガブリエル・メルカド、マウロ・サラテらで、彼らを率いたのは「チーム・ペケルマン」のウーゴ・トカーリだった。

 フル代表に至っては1993年のコパ・アメリカ優勝以降、21年も国際タイトルから遠ざかっている。その間には04年にアテネ、08年に北京で五輪の金メダルを獲得しているが、この時期を最後に結果が出せなくなったのは偶然ではない。

 ペケルマンが退任した06年以降、アルゼンチンは若い人材の不足、そして一貫性に欠けるAFAの代表強化策により、混迷の時期を過ごしてきた。さらに言えばビエルサが率いた98〜04年の間を除き、過去30年に渡ってマラドーナ、メッシらスーパークラック(名選手)に依存した一過性のチーム作りを繰り返してきたのだ。

 そんな状態でメッシがキャリアの下り坂を迎えた際、果たしてアルゼンチンには何が残るのだろうか。AFAはこの質問に対してどう答え、どんな選手を使い、どんなプロジェクトに沿ってチームを強化していくつもりなのか。

重要な問題を議論しないAFA

 現状、例えばユース年代の見通しは真っ暗な状態だ。プレー哲学についての具体的なプロジェクト、つまり何を目指してプレーするのか、どんなタイプの選手を必要としているのか、どうやってチームを作っていくのかは全く見えていない。

 一時的に好調を保つことはある。だがシメオネとマルティーノの哲学は全くもって別物だ。ホルヘ・テイレルはマルティーノの哲学に沿ってニューウェルズ・オールドボーイズのフベニール(U−18)を強化しているが、グロンドーナ会長の息子であるウンベルト・グロンドーナに血縁関係を除いてAFAの幹部を務めるに値する能力があるのかどうか、ぜひ一度質問してみたいものだ。

 アルゼンチンフットボール界は、最も重要な問題を議論せぬままでいる。今後何がどう変わるのか。何かを変える必要があるのかどうか。そういった疑問が生じぬよう、空いた役職を素早く埋めることしか考えていないのだ。こうした状況が続く限り、タイトル獲得の栄光はぼやけた過去に置き去りとなったまま、ただいたずらに時が過ぎていくだけだというのに。

(翻訳:工藤拓)

2/2ページ

著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント