厳しく、基本を守る名参謀が挑む最後の夏 「勝つ野球」教える横浜・小倉コーチ
投手の負担を減らす現実的な考えも
1998年、松坂大輔らを擁して春夏連覇を成し遂げた横浜。松坂をはじめ多くの選手をプロに輩出している 【写真は共同】
1死二塁でセンター後方へのフライや、右中間を抜ける長打、つまりバックサード(三塁への送球)が想定される場面では、キャッチャーがサードのバックアップに走る。このようなとき、ピッチャーがバックアップに入るのが一般的だが、小倉コーチはこのやり方をあえてさせていない。ピッチャーはどこにいるかといえば、空いた本塁へ、歩くようにしてカバーに入るのだ。
「バックサードでピッチャーが走るのは、かなり疲れるんだよ。特に夏の甲子園、ファウルグラウンドが広いときは大変だった。そこで疲れてしまい、ピッチングに影響が出たら意味がないから」
小倉コーチらしい、非常に現実的な考え方といえる。
屈辱のコールド負けをバネに最後の甲子園へ
試合後、小倉コーチは嘆きっぱなしだった。
「もう、全然ダメだよ。このままじゃ夏も勝てない。甲子園で勝つ? 正直言って、今は神奈川で勝つことを考えるのが精いっぱい……」
昔も今も、小倉コーチの指導は厳しい。グラウンドでは、ダミ声で選手を叱り飛ばすことも。「ノイローゼになりそうです……」とこぼす選手もいるほどだ。褒めることはめったにない。
「俺は褒めたりできないから。渡辺みたいにメールを送ったりするのもできねぇし」
渡辺監督は携帯メールを選手に送るなど、今どきの高校生に合わせた指導をしている。そういう指導が求められる時代になったのだろう。
「本当はもっと厳しくやりたいんだよ。でも、今の子は耐えられないから……」
最近、寂しそうにつぶやく小倉コーチの姿をよく見るようになった。時代の流れなのか、勝つための野球を徹底的に仕込む指導者が減ってきたように感じている。
指導者人生の「集大成」となる最後の夏。ミーティングでは「俺も最後だから、勝ちてぇんだよ」と選手に伝えている。最後に懸ける思いは選手も感じており、キャプテンの松崎健造は「野球観を変えてくれた方。小倉コーチのためにも、今年の夏は勝って、恩返しをしたい」と語る。
横浜の初戦は7月17日、横浜スタジアム。「打倒・横浜」に燃える東海大相模や慶応などがどんな戦いを挑むか、決勝は7月30日に行われる。