ブラジルW杯で“魔球”が少なかった理由 ボールの進化とキックの進化の相互関係

北健一郎

直接FKによるゴールはわずか3つのみ

ブラジルW杯で唯一の“ブレ球”フリーキックが入ったのが、準々決勝でのダビド・ルイスのシュート 【写真:Action Images/アフロ】

 ワールドカップ(W杯)ブラジル大会は、ドイツの4度目の戴冠で幕を閉じた。今大会を通じ、ある現象が起こっていた。それは、直接フリーキックによるゴールがほとんど見られなかったことだ。ブラジルW杯では全171ゴール中、直接フリーキックが決まったのは3得点。これはドイツ大会(6得点)、南アフリカ大会(5得点)と比べても少ない。

 特に目立つのは無回転シュートによるゴールが見られなかったこと。今大会ではブラジルのダビド・ルイスが準々決勝のコロンビア戦で決めた1本しかない。

 なぜ無回転シュートが決まらなかったのか?

 その理由を1つに限定することはできないが、「ボール」による要素は無視できないところだろう。W杯では大会ごとに最新テクノロジーを搭載した公式球が使用される。サッカーの中でも、特に繊細な技術が求められるキックにおいて、ボールが与える影響は小さくない。

パスに伸びが生まれる「ブラズーカ」

ブラジルW杯公式球「ブラズーカ」は、2年6カ月の開発期間を持って完成された試合球 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 今大会の公式球はアディダス社製「ブラズーカ」。ブラズーカは開発に2年6カ月かかり、アルゼンチンのリオネル・メッシら600人以上の選手がテストに参加。氷点下15度の温度や、標高1600メートルの試合などで気圧の影響を調べるなど、過酷なテストに合格して完成したという。

 このボールにはどのような特徴があるのか。

「全体的には“飛び”のいいボールになっています」

 こう語るのは筑波大学の浅井武教授だ。浅井教授は日本サッカーにおけるキック研究の第一人者であり、筑波大学サッカー部の総監督も務めている。浅井教授はブラズーカと前回大会の公式球「ジャブラニ」を比較するテストを行った。

 研究方法は固定したボールに風を当てる方法で風速変化に伴う空気抵抗を比較するというもの。その結果によれば、ブラズーカとジャブラニではボールの伸び方に違いがあることが分かった。

「ブラズーカの空気抵抗は、中速領域において、前回のジャブラニより空気抵抗が小さくスピードが出やすいのですが、逆に高速領域ではジャブラニより空気抵抗が大きいことが分かりました」

 噛み砕いて説明すると「中速領域」というのはボールのスピードがそれほど速くない状態のこと。「高速領域」はボールのスピードがかなり速くなった状態のことで。ザックリ言うなら、「中速領域」がパスで、「高速領域」がシュートだと思えばいい。

 つまり、ブラズーカとジャブラニを比較すると、パスを蹴ったときはブラズーカのほうが速いが、シュートを打ったときのスピードはジャブラニのほうが速いということだ。

「ブラズーカはジャブラニより中速領域での空気抵抗が小さく、その領域で大きな初速を得やすいボールであることから、中速領域を多用するパスのスピードを上げやすい。つまり、高速パスサッカーに比較的適したボールだと言えます」

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著者プロフィール

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。日本ジャーナリスト専門学校卒業後、放送作家事務所を経てフリーライターに。2005年から2009年まで『ストライカーDX』編集部に在籍し、2009年3月より独立。現在はサッカー、フットサルを中心に活動中。主な著書に「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」(ガイドワークス)などがある。

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