日本代表は常に“最強”である必要はない=ザックジャパンの4年間 第3回・戦力編
チーム内の競争意識の薄さ
吉田(左)らの主力メンバーは、大きなミスがあろうが“自動的に”ピッチに立ってきた。それがチームに競争意識を生まなかった原因だ 【写真:ロイター/アフロ】
主力選手はけがや出場停止がない限りは、“自動的”に先発としてピッチに立つ権利を与えられる。象徴的なのはコンフェデレーションズカップ後のウルグアイ戦(13年8月14日)で、吉田をスタメンにしたことだろう。吉田はイタリア戦で集中力を欠いて失点に絡むイージーミスをしてしまった。
大きなミスをすれば、次の試合に出られなくなるかもしれない。そうした危機感がなければ、チーム内の競争意識は高まらない。ザックジャパンの成長速度が2年目あたりからゆるやかに落ち始めたのは、「自分のポジションは安泰だ」と主力選手に感じさせてしまったことも要因だろう。
W杯でピッチに立てなかったフィールドプレーヤーは齋藤学、酒井宏樹、酒井高徳、伊野波雅彦の4人。清武弘嗣も勝負が決まったコロンビア戦の残り5分しか出ていない。興味深いのは、名前を挙げた5人のうち齋藤以外はザックジャパンの常連メンバーだったことだ。
ザッケローニ監督は23人のW杯メンバーを発表したとき、「チームの和を大切にすること」が選考基準にあったと話している。今回のザックジャパンはコートジボワールとの初戦でショッキングな敗戦を喫し、ギリシャ戦では交代枠を使い切らずにタイムアップしても、チームがバラバラになることはなかった。サブの選手は献身的にチームを支え、それは美しい光景ではあった。しかし、チーム内の競争意識の低さの表れにも見えた。
時間不足だった新戦力との融合
最後の最後で代表に呼ばれた大久保(写真)が本大会で主軸となったのは、調子が良かったからだけではない 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】
ザッケローニ監督は13年7月に韓国で行われた東アジアカップのメンバーから、柿谷曜一朗、大迫勇也、齋藤、山口蛍、青山敏弘、森重真人をW杯メンバーに選んだ。だが、ボランチとして2試合に先発出場した山口を除けば、W杯でチームの主力になった選手はいなかった。
3年間メンバーを固定して戦ってきたチームに、たった1年で新戦力をフィットさせるのは、そもそも難しい。そうした状況を招いたのは、「W杯出場」というノルマを果たすまで、チームを固定してきたザッケローニ監督の選手選考だった。
なおかつ、東アジアカップ組が合流してから日本は11試合の国際Aマッチを戦っているが、公式戦は1回もない。13年11月の欧州遠征ではオランダと引き分け(2−2)、ベルギーにも勝った(3−2)が、それはあくまでも親善試合でのこと。国際試合のプレッシャーや真剣勝負の雰囲気を経験できなかった。
ギリシャ戦では“ジョーカー”的な存在としてドリブラーの齋藤を投入するチャンスがあったにもかかわらず、交代枠を残して試合を終えたことが批判の対象になった。国際経験に乏しい選手を、W杯の試合の、しかも大事な場面で投入する。W杯未経験のザッケローニにとって、それはリスクの大きなことだったのだろう。W杯の出場経験を持っているベテランの大久保嘉人をサプライズ選手にもかかわらず本番で重用したのは、必ずしも調子が良かったからだけではなかったのだ。
一番大事な本番で問題点が噴出してしまった
東アジアカップでの活躍で柿谷(写真)らが“新戦力”として呼ばれたが、真剣勝負にぶっつけ本番となってしまったことはマネジメントミスと言わざるを得ない 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】
それは、以下3点になるだろう。
・主力に依存したチーム作りは、けがや所属クラブでの処遇など不確定要素に左右されやすい。
・メンバーを固定化し過ぎると、チーム内の競争意識が失われる。
・新戦力を融合させるときは、国際大会の真剣勝負を経験させる。
新監督に求めたいのは、日本代表が常に「“最強”である必要はない」ということだ。ザックジャパンはあまりにも順調な時期が長かったゆえに、チームの問題点に気づくのが遅れてしまった。そして、最も大事な本番で問題点が一気に噴出してしまった。
このことを考慮すると、日本代表を取り巻くメディア、ファン、サポーターは、目先の結果に一喜一憂するのではなく、「W杯で勝てるチームになっているか」を見極めることが、次の4年間で大事になるのではないか。