見るものの心を揺さぶる最後尾の勇者たち GKのMOMが倍増したブラジル大会
GKの大会と言えるブラジルW杯
グループリーグ第2戦でメキシコのGKオチョア(左)が、ブラジルの攻撃をシャットアウト。スコアレスドローの立役者となった 【写真:ロイター/アフロ】
GKのMOMが倍増したことは、高温多湿の開催地が多く、カウンターからDFラインの裏に抜け出すシーンが多く生まれたことや、決勝トーナメントに入ってPK戦が4度と過去最多タイになるなど、GKが目立つ状況が多かった影響もあるだろう。いずれにせよ、あらためてGKの重要性がクローズアップされた大会となった。
まず、GKが注目されるきっかけとなった試合は6月17日(現地時間。以下同)、グループAのブラジル対メキシコだった。互いの守護神が好セーブを連発し、スコアレスドロー。特にメキシコのGKギジェルモ・オチョアは出色の出来で、ブラジルの攻撃をシャットアウトしたことから、MOMに選出された。このニュースは驚きと賞賛を持って世界中を駆け巡った。
メキシコは、決勝トーナメント1回戦でオランダに1−2で敗れたが、オチョアは再びMOMに選出。反応の良さと前に出る判断、タイミングは素晴らしかったが、残念ながらオランダ戦ではコーナーキックからのボールを前に出つつもミスし、失点の原因を作ったことが悔やまれる。メキシコ国内で名を馳せ、3シーズン前からはフランスで研さんを積んだ、現在28歳のオチョア。他国のクラブへの移籍は確実視されており、さらなる成長が期待される。
また開催国のブラジル代表GKジュリオ・セーザルも、調子は良かった。2011−12シーズンまでイタリア・インテルで7シーズン過ごした実績と、34歳のベテランの味を見せた。所属するトロントFC(米国MLS)で出場機会に恵まれず、ゲーム勘のなさを不安視されたが、素晴らしい反応とパンチングでブラジルのゴールを守った。特に決勝トーナメント1回戦、PK戦でチリのシュートを2本止め、準決勝進出に貢献。ただ、準決勝のドイツ戦ではまさかの7失点を喫し、最優秀GKからは遠ざかった……。
弱冠22歳のベルギーGKクルトワの存在
弱冠22歳ながら、ベルギーの28年ぶりのベスト8進出の立役者となったクルトワ 【写真:Action Images/アフロ】
184センチと身長はさほど高くないが、ナバスは欧州で活躍するGKらしく、ポジショニングと反応に優れている。イタリアを1−0で破り、0−0だったイングランド戦はMOMに選出。優勝経験国を2試合連続零封したことは特筆すべきだ。決勝トーナメント1回戦でもギリシャのPKを1本止めて、MOMに輝いた。さらに続く準々決勝のオランダ戦も無失点に抑え、PK戦の末に3−4で敗れたが、3度目のMOMに選出された。結局、コスタリカは一度も負けることなく、ナバスは5試合2失点でブラジルを去った。まだ27歳。近い将来、世界的GKの仲間入りをする可能性もある。
今大会、一番の驚きと収穫は、ベルギーのGKティボ・クルトワだった。他国の正GKの多くは30歳以上、若くても20代後半という中にあって、22歳と圧倒的に若い。だがアトレティコ・マドリーで3シーズンの間、ゴールを守り続け、特に昨シーズンはチャンピオンズリーグ準優勝&リーグ優勝に寄与していた“経験”もあった。
クルトワは、W杯でも期待を裏切らなかった。彼のスタイルは欧州の現在の基本、トレンドを踏まえている。足の幅はいつも狭く、細かく動きながら正しい位置に構えて、前に出るタイミングも秀逸。決勝トーナメント1回戦の米国戦、2−1で迎えた延長後半でも、冷静に前に出てビッグセーブを見せて、ベルギーの28年ぶりのベスト8進出の立役者となった。
06年ドイツ大会の最優秀GKに輝いたイタリアGKジャンルイジ・ブッフォン(36歳)、10年南アフリカ大会の最優秀GKだったスペインのイケル・カシージャス(33歳)、チェコのペトル・チェフ(32歳)の3人はすでに30歳を超えている。経験がものを言うGKだが、22歳のクルトワの安定感は、彼ら3人にも比肩するほど。同年代のライバルは、スペインのGKダビド・デ・ヘア(23歳)くらいか。クルトワはあと2回、いや3回はW杯に出られることを考えると、「世界No.1」と言われる日も、そう遠くない。