“ゲルマン魂”で受け継ぐドイツの強さ 欧州勢の南米初優勝に向けて決勝に挑む
レーブ監督のち密な作戦がはまった前半
ドイツは後半にも途中出場のアンドレ・シュールレが2得点を挙げ、最後にブラジルのオスカルが一矢報いるゴールを奪ったものの、7−1という大差で歴史的な勝利を飾った。
この試合、開催国であるブラジルの“悲劇”ばかりが注目されがちだが、ドイツの戦いぶり、特に前半は見事としか言いようがなかった。試合前に準々決勝のブラジル対コロンビアの内容に関して「欧州ならば全員退場していただろう」と語っていたことに注目を集めたヨアヒム・レーブ監督だが、戦術面でもち密な対策を準備していた。
立ち上がりはブラジルが高い位置からドイツにプレッシャーをかけ、ネイマールがいない状況を逆に生かすような縦に鋭い仕掛けを見せる。それに対してドイツは1トップのミロスラフ・クローゼを除く9人が中盤にコンパクトなゾーンを作って受け流し、守備の要所を締めながらカウンターの好機を狙った。
「スピードのある攻撃に対して、ブラジルの守備はしばしば混乱することがあると分かっていた」とレーブ監督。特に累積警告で出場停止となったチアゴ・シウバを欠く守備陣は裏に弱さがあった。両サイドバック(SB)のポジションが高く、センターバック(CB)のダビド・ルイスとダンテは2人とも前にプレッシャーをかけるタイプで、個に強いがスペースを突いてくる動きの対応をあまり得意としていない。
前半11分の先制点はドイツ陣内でマルセロがボールを失い、そこからサミ・ケディラがトニ・クロースとのワンツーで攻め上がったところを、自陣までマルセロが全力疾走で止めた直後のCKからだった。ゴールのニアサイドに密集した状態で、トニ・クロースが右からファーサイドに蹴り入れる。トーマス・ミュラーがニアから素早くスライドして右足で合わせた。
これはドイツがブラジル戦に向けて仕込んでいたプレーだろう。マンツーマンで守るブラジルに対し、選手をニアに集中させてファーを空けておき、そのスペースに飛び込むという形だ。ニアに密集状態を作ることはブラジルのマークを混乱させる効果もあった。だから、ミュラーが動き出した瞬間、ブラジル側の誰も彼に付いていけなかったのだ。
06年に同じ悔しさを味わったブラジルを気遣う
そこから前半29分までにドイツが挙げた3得点は、混乱を起こしたブラジルの自滅だった。後半は開き直ったように攻撃に人数をかけてくるブラジルに対し、守備が後手を踏んだ場面も何度かあったが、要所を締めながらさらに2点を追加したのはさすがだ。交代出場のシュールレが2得点を奪い7−0とすると、終盤には会場に残ったブラジル代表のサポーターもドイツの攻撃に拍手を送っていた。
試合前はブラジル代表サポーターにかき消されたドイツの国歌が、アカペラで誇らしげに響き渡る。後にオスカルが意地のゴールを決めたが、7点差が6点差になったにすぎなかった。レーブ監督は「われわれの力を発揮できれば勝利できると思ってはいたが、このような結果は予想もできなかった」と振り返る。ブラジルの勝ち気をうまく受けながら、隙を突いて決定機を作る。そして相手DFの弱点を突いていく。それをしっかりと積み重ねた形だが、ブラジルの“崩壊”はレーブ監督も驚かされた様だ。
「2006年は開催国のドイツが準決勝で敗れ、ポルトガルとの3位決定戦に回った。今回ブラジルが置かれた状況というのは良く理解できる」。当時アシスタントコーチとして、その悔しい経験をし、さらに10年には監督として準決勝で敗れたレーブ監督はそう語り、悲しみにくれるブラジルを気遣った。