“ゲルマン魂”で受け継ぐドイツの強さ 欧州勢の南米初優勝に向けて決勝に挑む

河治良幸

何をすべきかが共有される伝統的なメンタリティー

2得点を挙げ、MOMにも選ばれたクロース(中央)。今回のドイツの主軸として、チームを中盤で支えている 【写真:ロイター/アフロ】

 ドイツは第二次世界大戦後、1954年の大会に復帰してから3度の優勝を経験しているが、今大会にいたるまで一度も一次リーグで敗退したことがなく、そのうち12回がベスト4以上に進出している。日本では“ゲルマン魂”といった言葉で表現されることがあるが、体力面や技術面の優位性に加えて、やはりメンタル面は大きな強みとなってきた。

 メンタルと言っても、単に精神的な強さということではなく、チームで心を1つにして試合に臨み、さまざまな状況の中で的確なプレーを選択できること、さらに集中を切らさずに相手のチャンスを潰し、要所でチャンスをものにしていけるのだ。試合中、あまりパニックに陥らないのも、そこで何をすべきかをチームでしっかり共有しているからだろう。もちろん戦術は大きく変化しているが、伝統的なメンタリティーは継承されている。

同時的、流動的な動きで相手をかく乱する

 加えて今回のチームの強みは守備のバランスを崩すことなく、攻撃に流動性を出せることだ。“ゼロトップ”とも言われる本職の1トップを置かない布陣とクローゼを1トップに張らせる布陣を使い分けるが、基本的には前者がポゼッション、後者はカウンターを意識した攻撃がメーンになる。ただ、どちらにしても中盤を起点として、ボールを持っていない選手が同時的に動き出し、流動的に絡むことで相手ディフェンスのマークをはがしていく。

 今回は過酷な環境の中で、そうした動きを志向していても出せていないチームが多いが、ドイツは高い機動力を発揮し、相手の守備を上回る攻撃を実現しているのだ。ただ、そのドイツも90分、常にそうした動きをしているわけではない。試合の流れの中で、試合を落ち着かせる時間とテンポを上げる時間を織り交ぜている。

 その主軸としてハイレベルなプレーを続けているのがMFのクロースであり、バランス感覚の高いバスティアン・シュバインシュタイガーの強力なサポートを得ながら、攻撃にリズムをもたらしているのだ。ブラジル戦は2得点を挙げたことがマン・オブ・ザ・マッチ(MOM)の獲得を大きく後押ししたが、レーブ監督が「これまで見てきた中で最高」と評価したのは、中盤からチームをオーガナイズしながら、機を逃さずにチャンスをもたらした働きに対してだろう。

決勝は守備の統率力が高まったアルゼンチンと激突

決勝での対戦相手となるのがアルゼンチン。マスチェラーノ(手前)らが守備面の安定を作り出している 【写真:ロイター/アフロ】

 決勝の相手はアルゼンチンに決まった。オランダと0−0のままPK戦を制しての決勝進出だが、決勝は90年イタリア大会以来24年ぶりとなる。しかもライバルの地での優勝に向け、選手もサポーターも一丸になっている危険な相手だ。

 大会前に不安視されていた守備は明らかに統率力が高まっている。ハビエル・マスチェラーノが中盤の起点を封じ、ベテランDFのマルティン・デミチェリスがオランダのロビン・ファン・ペルシをほぼ完璧に封じたように、ドイツの攻撃をアルゼンチンの守備が押さえ込めると、こう着状態になるかもしれない。

 密度が高い守備でアルゼンチンの良さを出させず、流れの中で持ち前の走力を生かしながら、いかに変化を入れていけるか。苦しい時間帯を堅実な守備でしっかりしのぎ、リズムの良い時間帯に効果的なフィニッシュを生み出せれば、勝機はかなり高くなる。

 これまで南米開催のW杯で欧州の国が優勝したことはないが、現在のドイツはその最初のチームになるに相応しいチームであることは間違いない。

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著者プロフィール

セガ『WCCF』の開発に携わり、手がけた選手カード は1万枚を超える。創刊にも関わったサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で現在は日本代表を担当。チーム戦術やプレー分析を得意と しており、その対象は海外サッカーから日本の育成年代まで幅広い。「タグマ!」にてWEBマガジン『サッカーの羅針盤』を展開中。

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