チリの前に苦しんだ開催国ブラジル 未だ見えない今後のチームの指針

沢田啓明

「ミネイロンの悲劇」が起きてもおかしくなかった

GKジュリオ・セーザルの好守で、PK戦を制したブラジル 【写真:ロイター/アフロ】

 ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の決勝トーナメント1回戦、開催国ブラジルはチリの驚異的な運動量、スピード、球際の強さの前に攻撃を封じられ、守備のミスも出て、苦しみ抜いた試合となった。
 GKジュリオ・セーザルの再三の好守とPK戦での連続セーブがなければ、「フットボール王国」が決勝トーナメント1回戦で早々と姿を消し、「マラカナンの悲劇」ならぬ「ミネイロンの悲劇」が起きていたところだった(注:試合が行われたのは、ベロオリゾンテのミネイロン・スタジアム)。

 ブラジルのルイス・フェリペ・スコラーリ監督は、グループステージの試合で両サイドバック(SB)の背後を突かれてピンチを迎えた反省から、2列目の並びを右からオスカル、ネイマール、フッキへと変え、不調のボランチ・パウリーニョの代わりにフェルナンジーニョを先発で起用した。

 序盤はこれらの変更が功を奏し、守備が安定すると同時に、小気味良くパスをつないでチャンスを作った。

 前半18分、ネイマールが蹴った左CKをゴール前でセンターバック(CB)のチアゴ・シウバが頭で方向を変え、ファーサイドへ飛び込んだCBダビド・ルイスが合わせて先制点を奪った。

 ところが、前半32分、思いもよらない状況で失点を喫する。

 自陣左サイドの深い位置でのスローインで、左SBマルセロがFWフッキへボールを投げたのだが、フッキのリターンが短くなる。密かに狙っていたチリのFWエドゥアルド・バルガスがかすめ取り、内側にいたFWアレクシス・サンチェスへ。サンチェスがファーサイドへ強烈に蹴り込んで、同点弾を決めた。

中盤で収まらず、CBからのロングパス頼みとなった

 後半、ブラジルはトップ下でプレーするネイマールが常に複数のチリ選手からマークを受け、ボールが収まらない。このため、中盤でパスをつなぐことができず、チアゴ・シウバ、ダビド・ルイスの両CBからのロングパスが頼りとなる。

 それでも、後半10分、マルセロからのクロスを右サイドで受けたフッキが胸と肩の中間付近でトラップして落とし、左足で蹴り込んだが、ハワード・ウェブ主審(イングランド)の判定はハンド。同19分、チリはMFマウリシオ・イスラからのクロスを受けたMFチャルレス・アランギスが至近距離から強烈なシュートを放ったが、ブラジルのGKジュリオ・セーザルが見事な反応で防いだ。

 その後、ブラジルはネイマール、フッキ、途中出場のセンターFWジョーらが惜しいシュートを放つが、チリのGKクラウディオ・ブラボの好守もあって決まらない。結局、1−1のまま延長へ突入した。

 延長に入ってからは、ブラジルがパスをつないで攻撃を組み立てたが、チリは深い位置で守備ブロックを構築して決定機を作らせない。

 延長後半の終了直前、ドラマが起きた。チリが中盤でパスをつなぐと、途中出場のセンターFWマウリシオ・ピニージャが右足で強烈なシュート。決まったかと思われたが、ゴールバーを激しくたたいて跳ね返った。

 延長でも決着がつかず、勝負はPK戦へ。ブラジルのGKジュリオ・セーザルが最初の2本を続けて止めたが、ブラジルも2人が失敗し、4人ずつ終えたところで2−2。ブラジルの5人目ネイマールに強烈なプレッシャーがかかったが、落ち着いて左下隅へ決めると、チリの5人目、ゴンサロ・ハラのキックが右ポストをたたき、3−2でブラジルが勝ち上がった。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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