チリの前に苦しんだ開催国ブラジル 未だ見えない今後のチームの指針

沢田啓明

チリにとってはベストゲームのひとつだった

厳しいマークにあい、この日はノーゴールとなったネイマール。ブラジルの「ネイマール依存症」は早く解決すべき課題である 【写真:ロイター/アフロ】

 ブラジルのGKジュリオ・セーザルは、2010年南アフリカ大会の準々決勝オランダ戦で痛恨のミスを犯して敗退の原因を作り、試合後、号泣しながら国民に謝罪。以後、代表から遠ざかった時期が長かったが、「もう一度、W杯の舞台に立って、10年の汚名を返上したい」という一念でプレーを続けてきた。それだけに、勝利の瞬間は感極まって目を赤くしていた。

 ジュリオ・セーザルだけでなく、ほとんどのブラジル人選手が涙を流していた。それほど精神的に追い詰められていたのである。

 攻撃では、ネイマールが厳しいマークを受けて不発。フレッジ、オスカル、フッキらは決定力が低く、フェルナンジーニョ、ダニエウ・アウベスらのミドルシュートも空砲に終わった。チームの「ネイマール依存症」は深刻で、スコラーリ監督はその解決策を見つけることができないでいる。

 守備では、オスカルとフッキが自陣深い位置まで戻って、サイドのスペースを埋めていた。しかし、フッキの不用意なプレーと、守備陣全体の不注意が失点に結びついた。

 一方、敗れたとはいえ、チリの健闘は見事だった。強烈なプレスで中盤を支配し、組織力に加えてサンチェス、バルガス、チャルレス・アランギスらが高い個人能力を発揮した。過去13年間、ブラジルに対して2分9敗とまったく勝てないでいたが、コンプレックスなど微塵(みじん)も見せず、120分間とPK戦を実に勇敢に戦った。チリのフットボール史上、ベストゲームのひとつ。選手たちは、胸を張って帰国していい。

順調に勝ち上がるも楽観できない情勢

 準々決勝(現地時間7月4日、フォルタレーザ)で、ブラジルは今大会絶好調のコロンビアと対戦する。

 この試合では、ボランチのルイス・グスタボが累積警告で出場できない。コロンビアの強力攻撃陣を抑えるには、フォーメーションを4−3−3として、2列目を右からラミレス、フェルナンジーニョ、エルナネスとして守備を強化するべきではないか。その場合、トップは右からオスカル、フレッジ、ネイマールとなりそうだ。
 また、今大会、攻守に精彩を欠く右SBダニエウ・アウベスをマイコンに代えてもいいだろう。

 コロンビアの攻撃を組み立てるハメス・ロドロゲスとフアン・クアドラードを徹底的にマークし、攻撃ではロングボールに偏ることなく、ネイマールとマルセロがいる左サイドからの崩しを狙いたい。
 ネイマール以外に頼れるアタッカーが少なく、ネイマールが不発なら威力が半減してしまうのが悩みの種。オスカル、フレッジらが奮起しない限り、優勝はとうていおぼつかないだろう。

 ここまでの4試合で、今後の指針となるゲームをまだ一度もできていないブラジル代表。今度こそはセレソンらしい試合ができるのか、あるいは一度もできないまま敗退してしまうのか。決して楽観できない情勢にある。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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