不安定なアルゼンチンに優勝は不可能? メッシら攻撃陣の復調が頼りの厳しい現実
妥当な目標はベスト4?
メッシの2試合連続決勝ゴールで決勝トーナメント進出を決めたアルゼンチン。このまま優勝へと突き進むことができるか 【写真:ロイター/アフロ】
ワールドカップ(W杯)に向けて国内で直前合宿が始まった5月26日、アルゼンチンのアレハンドロ・サベーラ監督は会見で本大会の目標について聞かれ、そのように答えた。
リオネル・メッシ、ゴンサロ・イグアイン、セルヒオ・アグエロ、アンヘル・ディ・マリアといった欧州の主要リーグで活躍中の攻撃陣をそろえ、南米地区予選も首位で通過したアルゼンチンの監督が、優勝ではなくベスト4入りを目標としていることは意外だと思われるかもしれない。さらに、アルゼンチン国内のメディアからはこの目標が妥当だと考えられていると言ったら、もっと驚かれるだろうか。
実際に現在の代表について、もし「優勝する」と言い切るアルゼンチン人がいたとしたら、それは単なる「個人の願い」に過ぎず、証拠や要素に基づいた上での理論ではない。サベーラ監督やメディア関係者だけでなく、選手たちも「優勝したい」とは絶対に言わないし、過信もしていない。
それにはいくつかの理由がある。
「前祝」しない国民性と02年の苦い記憶
その証拠に、今回アルゼンチンのキャンプ地となっているベロオリゾンテのアトレチコ・ミネイロの施設入口に、当初は「ようこそ、未来のカンペオン(チャンピオン)」と大きく書かれたボードが掲げられていたが、チームが到着する前に撤去された。
もうひとつの理由は、2002年日韓大会での悪夢のような体験だ。当時、マルセロ・ビエルサによって超攻撃的スタイルを貫いていたアルゼンチンは、ガブリエル・バティストゥータ、ロベルト・アジャラ、ファン・セバスチャン・ベロン、ハビエル・サネッティといったスターをそろえ、ジネディーヌ・ジダンを擁したフランスとともに優勝の最有力候補とされていた。普段は慎重なアルゼンチンのメディアもビエルサのチームの優勝を信じて疑わなかったあの時、グループリーグを1勝1分1敗の成績で、終えて敗退することなど、一体誰が予想しただろう。12年前のショックは今でも新鮮な状態でアルゼンチンの人々の記憶に残っており、「過信は禁物」という概念が定着するきっかけとなった。
解決しない「攻守のアンバランス」
W杯南米地区予選でアルゼンチンは、メッシを中心とする攻撃陣の突破力と決定力によって次々とゴールを量産。02年大会予選以来となる1試合平均2得点以上という効率性を発揮した。だが一方、守備では相手の攻撃に容易に裏を取られたり、サイドバック(SB)が攻撃参加に出た隙に空いたスペースを攻め込まれるという危険な状況が多発。「ゲームの主導権を握って攻撃主体にすることで守りに回る時間を減らす」というサベーラ監督の言葉どおり、“弱点”を誤魔化しながら予選を通過してきた。
守備陣は、右SBにパブロ・サバレタ、センターバック(CB)にエセキエル・ガライとフェデリコ・フェルナンデス、左SBにマルコス・ロホという顔ぶれでほぼ決まっている。控え要員として両サイドでプレーできるウーゴ・カンパニャーロと、予選で安定感を発揮したCBホセ・マリア・バサンタがいる他、2年半もの間代表から遠ざかっていたマルティン・デミチェリスがマンチェスター・シティ(イングランド)での好パフォーマンスを評価されてメンバー入りを果たした。
これまでレギュラーに継続性が与えられたことによって、DFラインの連携性は高まった。しかし、両SBと中盤の2人、前線の3人を含む7人が積極的に攻撃参加する中、自陣ではボランチのハビエル・マスチェラーノとCBコンビの3人で相手の反撃を一気に受けることになっていた。