異なる母国を選んだボアテング兄弟の再戦 ともにピッチに立つことはできるのか?

重宝されるドイツ代表の弟ジェローム

ドイツ代表の弟、ジェローム・ボアテング(左)。小さなケガを抱えているが、非常事態のチームにおいて、レーヴ監督から重宝されている 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 当然のことながら、指揮官はもう一人のボアテングの調子にも気づいている。だが、クリスティアーノ・ロナウドらを擁するポルトガルを下した翌日、ドイツは疑念の影の中にあった。W杯デビュー戦で得点したマッツ・フンメルス、そしてジェローム・ボアテングが、早くも練習場から60キロ離れた病院へとヘリコプターで搬送されたのだ。2人がガーナ戦に出られるとしても、小さなケガを抱えていることに疑いの余地はない。フンメルスに関してはポジティブなサインは示されていないものの、ボアテングに関しては出場の計算が立つ。今後6週間は添え木を必要とするが、着用するのは手の親指である。サッカーをするのに問題はない。

 守備陣のケガは、ドイツ代表が勘弁願いたいと思っているものである。中盤の守備的なポジションにケガ人が多すぎたため、ヨアヒム・レーヴ監督は14年W杯に臨むチームをアレンジし直さなければならなかった。ジョゼップ・グアルディオラ監督によりアレンジされたバイエルン・ミュンヘンと同様に、フィリップ・ラームは中盤の底にモーターとして配置された。最終ラインの4バックは、本来センターバックである選手で埋められた。中央に入るフンメルスとペア・メルテザッカーはいいものの、左にはベネディクト・ヘベデスが入り、ジェローム・ボアテングも気乗りのしない右サイドに入った。

 このバイエルンのDFは、中央の方がより快適であるとの雰囲気を隠さない。だが非常事態の代表チームは、彼の柔軟性を必要としていた。かくして、ポルトガル戦でレーヴのプランは機能した。両サイドバックは主に守備の仕事に集中し、ナニやクリスティアーノ・ロナウドらに自由に呼吸をさせなかった。特にボアテングは、世界のスーパースター相手のマークに成功した。だが、こちらは兄より口数が少なく、内向的と言ってもいい。レーヴの好むタイプである。

 勝っているチームを変えるなというのは、サッカー界でよく知られた勝利の方程式だ。だがドイツの戦術家が、ガーナ戦でもポルトガル戦と同じ先発イレブンに信頼を置いたなら、それがケガ人を考慮した結果であるということは考えにくい。

 レーヴの胸のうちを想像するに、大会を通じて固定された先発メンバーなどなく、試合ごとの先発フォーメーションが必要であると考えるだろう。戦術面はもちろん、フィジカル面も考慮してのことである。そのため、少し前に負傷による長期離脱からの復帰を喜んだばかりのサミ・ケディラは、このW杯という最高レベルの戦いにおいて、1週間に何度もフル出場することはないだろう。同じことがバスティアン・シュヴァインシュタイガーや、準備段階でフィジカルに問題があったミロスラフ・クローゼにも言える。今大会初戦も、彼らは欠場していたのだ。

兄弟の願いは叶うのか?

 それでは、ボアテング兄弟はどうだろうか? (異母)兄弟はブラジルでもショートメッセージで連絡を取り合っているが、先発メンバーについて話すことはないだろう。「この一戦でボアテング兄弟がともにピッチに立つことを、とても楽しみにしている」と、ケヴィン=プリンスは大会前に話していた。ブンデスリーガのみならず、W杯でもこの顔合わせが実現するのだ。

 ベルリンの郊外で、この兄弟が並び歩くキャリアはスタートした。ヘルタ・ベルリンを経て、彼らの道はドイツU−21へとつながり、そこでもともにボールを蹴っていた。その後、ガーナにより明るい展望を見いだしたプリンスは、父ジョージの祖国のためにプレーすることを選んだ。クラブレベルではトッテナムにドルトムント、ミランと渡り歩き、最後はゲルゼンキルヒェンのシェルケ04へとたどり着いた。

 兄弟のもう一方、ジェロームはハンブルガーSVにマンチェスター・シティ、そして今ではリーグ記録でブンデスリーガを制したバイエルンのキープレーヤーとなっている。シャルケとバイエルン。これ以上に対照的な歩みはない。

 そして試合への期待感も、まったく違うものとなっている。ボアテング兄弟の願いが、見事交わることはあるのだろうか。

(翻訳:杉山孝)

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著者プロフィール

フランソワ・デュシャト 1986年生まれ。世界最大級のサッカーサイト「Goal.com」でドイツ語版の編集長を務め、13年からドイツで有数の発行部数を誇る「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)でドイツ西部のサッカークラブを担当する。過去には音楽の取材もしていた。ツイッターアカウントは@Duchateau。自身のサイトはwww.francoisduchateau.net。 ダビド・ニーンハウス 1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

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