異なる母国を選んだボアテング兄弟の再戦 ともにピッチに立つことはできるのか?
重宝されるドイツ代表の弟ジェローム
ドイツ代表の弟、ジェローム・ボアテング(左)。小さなケガを抱えているが、非常事態のチームにおいて、レーヴ監督から重宝されている 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】
守備陣のケガは、ドイツ代表が勘弁願いたいと思っているものである。中盤の守備的なポジションにケガ人が多すぎたため、ヨアヒム・レーヴ監督は14年W杯に臨むチームをアレンジし直さなければならなかった。ジョゼップ・グアルディオラ監督によりアレンジされたバイエルン・ミュンヘンと同様に、フィリップ・ラームは中盤の底にモーターとして配置された。最終ラインの4バックは、本来センターバックである選手で埋められた。中央に入るフンメルスとペア・メルテザッカーはいいものの、左にはベネディクト・ヘベデスが入り、ジェローム・ボアテングも気乗りのしない右サイドに入った。
このバイエルンのDFは、中央の方がより快適であるとの雰囲気を隠さない。だが非常事態の代表チームは、彼の柔軟性を必要としていた。かくして、ポルトガル戦でレーヴのプランは機能した。両サイドバックは主に守備の仕事に集中し、ナニやクリスティアーノ・ロナウドらに自由に呼吸をさせなかった。特にボアテングは、世界のスーパースター相手のマークに成功した。だが、こちらは兄より口数が少なく、内向的と言ってもいい。レーヴの好むタイプである。
勝っているチームを変えるなというのは、サッカー界でよく知られた勝利の方程式だ。だがドイツの戦術家が、ガーナ戦でもポルトガル戦と同じ先発イレブンに信頼を置いたなら、それがケガ人を考慮した結果であるということは考えにくい。
レーヴの胸のうちを想像するに、大会を通じて固定された先発メンバーなどなく、試合ごとの先発フォーメーションが必要であると考えるだろう。戦術面はもちろん、フィジカル面も考慮してのことである。そのため、少し前に負傷による長期離脱からの復帰を喜んだばかりのサミ・ケディラは、このW杯という最高レベルの戦いにおいて、1週間に何度もフル出場することはないだろう。同じことがバスティアン・シュヴァインシュタイガーや、準備段階でフィジカルに問題があったミロスラフ・クローゼにも言える。今大会初戦も、彼らは欠場していたのだ。
兄弟の願いは叶うのか?
ベルリンの郊外で、この兄弟が並び歩くキャリアはスタートした。ヘルタ・ベルリンを経て、彼らの道はドイツU−21へとつながり、そこでもともにボールを蹴っていた。その後、ガーナにより明るい展望を見いだしたプリンスは、父ジョージの祖国のためにプレーすることを選んだ。クラブレベルではトッテナムにドルトムント、ミランと渡り歩き、最後はゲルゼンキルヒェンのシェルケ04へとたどり着いた。
兄弟のもう一方、ジェロームはハンブルガーSVにマンチェスター・シティ、そして今ではリーグ記録でブンデスリーガを制したバイエルンのキープレーヤーとなっている。シャルケとバイエルン。これ以上に対照的な歩みはない。
そして試合への期待感も、まったく違うものとなっている。ボアテング兄弟の願いが、見事交わることはあるのだろうか。
(翻訳:杉山孝)