語られなかった「自分たちのサッカー」=日々是世界杯2014(6月18日)

宇都宮徹壱

「マイクラブ」をアピールする日本人サポーターも

試合会場で練習を行う日本代表。ギリシャ戦に向け、万全の体制を整える 【写真:ロイター/アフロ】

 ワールドカップ(W杯)ブラジル大会も7日目。この日はグループBの2試合、すなわち13時(現地時間。以下同)からのオーストラリア対オランダ(@ポルトアレグレ)、16時からのスペイン対チリ(@リオデジャネイロ)が行われ、19時にはグループAの残り1試合、カメルーン対クロアチアがマナウスで開催された。

 注目はやはり、初戦でオランダに1−5で大敗しているスペインのサバイバルであろう。前回大会優勝国のグループリーグ敗退は、2010年大会のイタリア、02年大会のフランスなど、決して珍しい話ではないものの、08年のユーロ(欧州選手権)優勝以来、主要タイトルを3大会連続で獲得してきたスペインとなると話は別だ。今頃はスペイン国内のみならず世界中で、ひとつのサイクルを終えようとしている偉大なチームについての話題が駆け巡っているはずだ。

 とはいえ、現地にいる私は移動日。フォルタレーザから日本対ギリシャが行われるナタールに移動後は、両チーム監督の前日会見の取材があるので、3試合とも断片的にしか見ることができなかった。慢性的な寝不足を少しでも解消しようと、機内で惰眠をむさぼっているうちに、瞬く間に目的地に到着。荷物を下ろそうと立ち上がると、ふいに前の座席の若い男性から「宇都宮さんですか?」と声をかけられた。
「昔ウチにいたフッキが見たくて、昨日のブラジルの試合を見に行ったんですよ。残念ながら出番はなかったんですが」と語るその男性。よく見たら、コンサドーレ札幌のレプリカユニホームを着ているではないか。そういえば今大会は、日本代表だけでなく普段サポートしているクラブのレプリカを着ている日本人をたまに見かける。サンパウロでは栃木SC、レシフェでは愛媛FCのサポーターに遭遇した。日本でもカテゴリーに関係なく、世界にマイクラブをアピールするサポーターが増えてきたことは、何ともうれしい限りである。

ギリシャ戦が行われる「クリスマスの街」

ナタールの空港に降り立って、タクシーの車窓から撮った最初の1枚。何とも牧歌的な風景が広がる 【宇都宮徹壱】

 さて、ギリシャ戦が行われるナタールは、ポルトガル語で「クリスマス」を意味する。市が誕生したのが1599年12月25日だったことに由来するのだそうだ。コートジボワール戦が行われたレシフェから、北へ300キロほど離れただけなのに、視界に入ってくる風景はかなり違ったものに見える。

 リオグランデ・ド・ノルテ州の州都とはいえ、ものすごくひなびた、何とものんびりした感じなのである。ある同業者が「メキシコの町並みに似ている」と語っていたが、なるほどぴったりくる表現かもしれない。赤い土と青い空、そしてパステルカラーで塗られた建物。ちなみにレシフェでは治安の悪さが懸念されていたが、ここナタールは国内でも有数の犯罪が少ない都市として知られている。ブラジルという国は、飛行機から降りるたびに別世界が広がっているような感覚だ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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