松井裕樹は「先発」か「中継ぎ」か=制球難の克服へ、山村宏樹が起用法を提言

構成:スポーツナビ

制球難の克服のため、場数を踏める中継ぎ転向へ

松井裕が1軍で結果を残すためには、自分で変わろうと思うことができるかがカギと指摘する山村氏 【写真は共同】

――松井投手の制球難を克服するためには、今後何が必要でしょうか?

 今回、2軍で場数を踏むため、2イニング投げ、中2日でまた2イニング投げるといった調整をしましたよね。これは決して無駄ではなかったと思います。先日の中日戦(6月7日、ナゴヤドームで2回を被安打1、無失点に抑える)も良かったですよね。

 長いイニングを投げることで、制球が安定しなくなっていくのであれば、短いイニングで勝負をさせた方が成功するかもしれませんね。

――中継ぎで1軍マウンドの経験を多く積むことが大事でしょうか?

 場数を多く踏ませた方がいいように思いますね。2軍に降格した時も感じたことなのですが、松井投手の球であれば、2軍ではそうそう打たれないと思います。それだけ彼は素晴らしい素質を持っていますし、ストレート、チェンジアップ、スライダーは良いです。それであれば、やはり1軍で経験を積むのが大事です。負け試合での登板も一つの手です。そこで一つ一つ経験を積み重ねることで、自信をつかんでいってもらうのも必要だと思います。

 松井投手の成長も確かにチームにとって大事なことなのですが、1軍は勝敗を争う場です。4月に2軍に落とす際に星野仙一監督も「ここまで我慢をしたが……」とコメントしていましたが、チャンスを与えてもつかみきれないのであれば、先発で起用し続けるのではなく、とにかく1軍でもう一度自らチャンスをつかむことが、メンタルを強くしていくのが成功への近道になるのではないかと思います。

――チーム事情としてもリーグ、交流戦ともに最下位と苦しい状況ですね。

 余裕があれば、1週間に1度、先発のマウンドを託して、勝ち星を得ることで変わる機会をつかんでいく方法もあると思います。ただ、現在の楽天では厳しいですよね。先発でマウンドに立つといろいろと考えすぎる傾向があるのであれば、1イニングをとにかく抑えることに集中させ、1軍の経験を積ませていくのがいいと思います。絶対に打たれてはいけない、四球も出せない場面、ピッチャーとして最も厳しい場面でマウンドに行く経験を積んでいくこともできるでしょう。

 松井投手の場合、ブルペンや2軍で300球、400球投げても制球が変わるように思えません。技術ではなく、メンタル面に課題があると思いますので。1軍で1つでも多く抑える経験が良薬になると思います。

本人が変わろうという気持ちを持てるかカギ

――今後、首脳陣の起用法は難しくなったでしょうか?

 難しくなったと思います。繰り返しになりますが、良い球は持っていますので、人によっては先発を続ける方がいいという方ももちろんいると思います。ピッチャーにとって何よりの経験、自信になるのは勝ち星ですからね。

 ただ、どこで投げようとも、本人が変わろうという気持ちを持てるかが、今後の松井投手のカギになると思います。1つきっかけをつかめずにダメになっていくピッチャーを私もたくさん見てきましたし、プロ野球で生き残るために何をしなくてはいけないのかということを、自分で考えていかないと、アッと言う間に終わっていく世界です。数年後に「松井裕樹っていたね」とファンの方に言われないためにも、今が本当に大事だと思います。

――松井投手はどのように変わらないといけないでしょうか?

 桐光学園高時代のままのピッチングスタイルでは通用しないと分かったはずです。何が足りないのか、もっともっと考えなくてはならないですね。自分の長所もしかり、マウンド上でどんな気持ちになっているのかもしかり、細かく分析して、野球に対しての取り組みも変えないといけないでしょうね。

「松井裕樹=四球」のイメージがついてしまい、バッター心理としても今は「2、3球待てばボールが2つ来る」という心理的優位に立たれていると思うんですよね。ですから、それを上回る研究や練習をしなくてはいけないですね。

――気持ちの持ち方を変えるだけでもピッチングは大きく変わりますか?

 変わると思います。今はベンチ内でもソワソワしていて、何か自信のないような、オドオドしているように見えますし、松井投手は落ち着きが無いという話も聞きます。今回の登板でも、イニング間のキャッチボールを1アウトからしている場面が見られました。そばから不安なのかなと見えてしまいますよね。

 極端な話ですが、四球を出しても次のバッターを三振で仕留めればいいじゃないか、というくらい開き直るのも手ですよね。27個の三振を取るというくらい発想を転換させることができるか。四球を出しても「次を見とけよ、三振で終わりさ」くらいに強気でいられれば結果は変わってくると思いますよ。

――今後、松井投手が1軍で結果を出していくためには?

 まずは練習もそうですが、1つ1つを丁寧に積み重ねていくことです。ランニング1本、キャッチボールの1球、すべてに集中して気を抜かないこと。それをするためにも自分が変わっていく必要があるのだと思います。

 以前、自分が見てきたところでは、井川選手(慶、オリックス)や藤川選手(球児、カブス)もかつてはコントロールが悪かったですが、野球に対する意識の高さもあって、制球難を克服してきました。私の同僚だった有銘(兼久)も制球が悪かったですが、彼が言うには「試合でどれだけ投げるか、その中で感覚としてコントロールを覚えていきます」という考えのもと、取り組んで制球難を克服したそうです。アプローチの方法はたくさんあると思います。周囲からいろいろと言われると思いますが、過剰に気にするようなことはせず、松井投手にも早く自分で打開策を探してほしいですね。

山村宏樹/Hiroki Yamamura

【スポーツナビ】

1976年5月2日、山梨県出身。甲府工高から95年ドラフト1位で阪神入団。2000年に大阪近鉄に移籍し、先発ローテとして01年のチームのリーグ優勝に貢献する。04年オフに分配ドラフトで東北楽天に移籍。12年の現役引退後は、野球解説やコラム執筆を中心に活動している。

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