W杯“最低年俸の選手”が殊勲のゴール ロシア戦後、韓国報道は何を伝えたか?

キム・ミョンウ

“因縁対決”は1−1の同点で終了

ロシアvs.韓国の“因縁対決”は、イ・グノ(右)のゴールで韓国が先制したが、ロシアが追いつき、ドローに終わった 【写真:ロイター/アフロ】

“韓国とロシアの因縁対決”――。韓国内でそういう見方が強かったワールドカップ(W杯)のグループH、韓国対ロシアの試合。試合は序盤から韓国のソン・フンミンが積極的に仕掛けて決定機を演出。一方のロシアも強烈なFKからゴールチャンスを作り出すも、前半を0−0のまま折り返して後半へ。

 互いにこう着状態が続くなか、後半23分、途中出場したイ・グノがドリブル突破から右足で放ったミドルシュートをロシアのGKイゴール・アキンフェエフがキャッチミスをしてゴールにつながった。

 1−0でリードした韓国だったが、6分後の同29分、途中出場していたFWアレクサンドル・ケルジャコフがゴール前の混戦から押し込んで同点に持ち込んだ。結局、1−1のドローとなり、勝ち点1をそれぞれ分け合った。

 韓国国内ではこのロシアとの初戦が、かなり注目度の高いものとなっていた。その理由は、今年2月に行われたソチ冬季五輪の女子フィギュアスケートで、五輪連覇を狙ったキム・ヨナが、アデリナ・ソトニコワにきん差の“判定疑惑”で金メダルを逃したことにある。

 その「復讐のためのゴールパフォーマンスがあるかも」という期待めいたものを国民が少なからず感じていた。というのも2002年のソルトレークシティ冬季五輪、ショートトラック男子1000メートル決勝で、韓国のキム・トンソンが1位でゴールするも、2位のアポロ・アントン・オーノ(米国)の進路を妨害したとして、失格となった。
 この出来事を忘れていなかったサッカー韓国代表は、同年の日韓W杯で米国と対戦した際、同点ゴールを決めたアン・ジョンファンが“オーノ”のスケートパフォーマンスをしたのだ。

 今回もキム・ヨナに関するパフォーマンスがあるかとされたが、それは当初から否定されていたことでもあった。ホン・ミョンボ監督は2月に「今回のソチ五輪では国民の一人として悔しい気持ちはある。ただ、サッカーとそれとは関連づけたくはない。選手たちが余計な神経を使うことになる。だから今回のロシア戦は(キム・ヨナの件と)まったく関係ないことと捉えている」と一線を引くことを明らかにしていたのだ。

韓国では得点を奪ったイ・グノを賞賛

 こうしたパフォーマンスこそ出なかった今回の試合だが、これまでの各国の試合と見比べると、両国の慎重な試合運びは少々退屈に映ったかもしれない。

 ただ、韓国国内の熱気はすさまじいものがあった。ソウル中心部の光化門広場など応援できる場所には、午前7時の試合前から多くの人でごった返し、韓国代表に熱い声援を送り盛り上がりを見せていた。

 試合終了後、ホン・ミョンボ監督は「結果だけを見れば悔しさは残るが、初戦からいい試合内容を見せてくれたので、頭を下げる理由はない」と語るほど、韓国メディアの見方は好意的なものが多かった。

 報道の中で特に目立ったのは元Jリーガーのイ・グノの先制ゴールについてだった。

「イ・グノ、4年待った会心のゴール!」(朝鮮日報)
「“週給3万ウォン(約3000円)”イ・グノのゴール。特級ジョーカーに浮上!」(東亜日報)
「ブラジルW杯最低年俸のイ・グノがやってのけた!」(スポーツ朝鮮)

 イ・グノといえば日本でもおなじみのFWで、Jリーグのジュビロ磐田とガンバ大阪でプレーしたことがある選手。4年前の南アフリカ大会では最終選考から漏れた苦い記憶がある。

 だからこそ、イ・グノの今大会への意欲は相当なものだった。4年前にメンバーから外れた当時、ジュビロ磐田のクラブハウスで彼にインタビューする機会があったのだが、メンバーに選ばれなかったショックからすぐに立ち直ると、「ブラジルW杯には必ず出場する」と語っていたことを今でも記憶している。

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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