2得点にも煮え切らないネイマール 母国の地でエース覚醒の時は来るか?

工藤拓

「欲しいのはタイトルだけ」

W杯開幕戦で2得点を挙げ、チームを勝利に導いたネイマール。しかし、この日はエースらしいプレーができたわけでもなかった 【Getty Images】

「自分は最優秀選手にも、得点王にもなりたくない。欲しいのはタイトルだけ。代表の一員としてチャンピオンになりたいんだ」

 そんな前日会見での言葉とは裏腹に、ネイマールはアレナ・デ・サンパウロで行われたクロアチアとのワールドカップ(W杯)開幕戦にて2ゴールを挙げ、ブラジルを逆転勝利に導いた。

「想像以上に良い試合になった。勝ちたいとは思っていたけど、デビュー戦で2ゴールを決められた喜びは本当に大きいよ」

 試合後はそう言って無邪気に喜んでいたものの、実際は疑惑のPK判定に助けられた部分が大きいだけに、個人としてもチームとしても煮え切らない試合だったのではないか。88分、ラミレスに代わってベンチへ下がる際の険しい表情は、自身のプレーに満足できていないことを表していたように思える。

エースより輝きを放ったオスカル

 この日ブラジルは試合開始から間もなく、通常の右フッキ、トップ下オスカル、左ネイマールから、右オスカル、トップ下ネイマール、左フッキに2列目の並びを変えた。

 恐らくルイス・フェリペ・スコラーリ監督は、ネイマールは駆け引きに長けたベテランDFダリヨ・スルナとマッチアップさせるより、スピードに欠けるセンターバック2人と、守備専門ではないMFルカ・モドリッチとイバン・ラキティッチが並ぶ中央からドリブル突破を仕掛けさせた方が効果的だと考えたのだろう。実際、ネイマールがペナルティーエリア手前中央から決めた29分の同点ゴールは、その変更が功を奏した形で生まれている。

 だが、この日ブラジルの攻撃を90分間けん引し続けたのは1歳年上の背番号11であり、全国民の期待を一身に背負っていたエースナンバー10ではなかった。

 相手DFたちに囲まれながらイーブンボールを粘り強くネイマールにつないだ同点シーン、右サイドからFWフレッジにくさびを当てたPK獲得シーンをはじめ、この日のオスカルは本職ではない右サイドからチャンスメークを連発。最後にはペナルティーエリア外から相手GKの不意をつく右足トゥーキックでのシュートを決めるなど、「キャリア最高の試合の1つ」と自画自賛する活躍ぶりだった。

相手GK、主審の判定に助けられた部分も

 一方のネイマールは最も重要なゴールこそ決めたものの、プレーが雑で、イージーミスが多く、何より攻撃の中心となるべきトップ下の選手としては圧倒的にプレーへの関与が少なかった。

 そんな中でも2ゴールを決めたのはさすがながら、ペナルティーエリア外から左足で決めた1点目はクロアチアGKスティペ・プレティコサの反応が遅かった印象が強い。コースが甘く完全に読まれていた2点目のPKも、やはり相手GKの不可解なファンブルに救われた。それはネイマール本人も認めており、試合後には「PKは左側に蹴りたかったんだけど、うまくいかなかった。彼の伸ばした手がひ弱で助かったよ」と胸を撫で下ろしている。

 さらに27分にはハイボールを競り合った際、モドリッチに対して不要かつ危険な肘打を見舞い、今大会初となるイエローカードを提示された。あのファウルは一発退場になっていてもおかしくなかっただけに、疑惑のPK獲得と合わせて西村雄一主審に感謝すべき試合だったと言えよう。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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