日本の命運を握るボランチ4人の起用法 山口を軸に、3人をどう使い分けるか?

元川悦子

ボランチで3試合フル出場は一人だけ

コスタリカ戦前日に全身の張りを訴えた長谷部は、W杯本大会に間に合うのか 【Getty Images】

 後半に入ると、2日前に現地入りしたばかりの相手の運動量が落ち、遠藤も山口もいい距離感でプレーできるようになった。香川真司の2点目は遠藤のパスが起点になり、さらに本田が3点目を決めて、逆転に成功する。これで日本は勝利したかと思われたが、残り数分のところでリスクを冒して攻め込んできたザンビアのルバンボ・ムソンダが強引にミドルシュート。これが山口の背中に当たってコースが変わりゴールに吸い込まれてしまった。守護神・西川周作も反応しきれず、試合は3−3と再び振り出しに戻ることになった。

 そこで、アルベルト・ザッケローニ監督は遠藤と青山を交代。その青山がいきなりファーストタッチでハーフウェーライン付近から一瞬のスキを突いてタテパスを蹴りこみ、大久保嘉人の決勝点を巧みにアシストしてみせた。

「ザンビアは裏に走る動き、2列目から出ていく動きについてきてなかったし、実際に真司に一度チャンスがあった。ラインがうまく整っていないと感じたので、そこを突くことしか考えていなかった」とまさに青山らしい戦術眼の鋭さが出て、日本は本番前ラストマッチを何とかモノにした。

 このザンビア戦と、キプロス・コスタリカの3試合を通してみると、270分間ピッチに立ち続けたボランチは山口ただ1人。今の日本代表はもはや彼を抜きには語れない。

「ザンビア戦の前半は相手に押し込まれる時間もあったし、自分たちが意図したトップ下につけるパスも遮断されていた。後半はサイドを使った攻撃もできてよかったですけれど、やっぱりカウンターを何回か食らったり、GKから一発で裏を抜かれるシーンもあった。コートジボワールには(ディディエ・)ドログバがいて、もっと厳しくなるからそのあたりを突き詰めていかないといけない」と、彼は反省点を口にすると同時に、ブラジル本大会を戦い抜く具体的イメージを頭の中ですでに思い描いているようだ。

 改めて考えてみると、山口という男は本当に強運の持ち主と言っていい。10代の頃はトップ下を本職にしていたこともあって、同世代ボランチの筆頭である山田直輝(浦和レッズ)や米本拓司(FC東京)の後塵を拝していた。実際、山田と米本は10年1月、岡田武史監督が率いた若手のみのA代表に呼ばれ、イエメン戦に挑んでいる。その2人が大ケガで長期離脱を余儀なくされ、山口にチャンスが回ってきた。その流れが決定的になったのが、ロンドン五輪代表の立ち上げとなった10年アジア大会(広州)。ここでの目覚ましい活躍で、彼は一気に存在感を高める。実はこの時も、関塚隆監督は同じセレッソ大阪に所属していた黒木聖仁(現V・ファーレン長崎)を目当てに視察に行ったところ、山口が目に留まり、抜てきに至ったという。そのまま順調に成長し、日本代表入りした頃はちょうど遠藤・長谷部の「鉄板ボランチ」のテコ入れ時期。まさに時流に乗って、今の定位置をつかんだのだ。そういう「持ってる男」がいるチームには特別な勢いが生まれる。02年日韓大会の稲本潤一(現川崎フロンターレ)のようなインパクトを、彼は残すかもしれない。

気がかりは長谷部の復帰

 その山口と長谷部がコンビを組んだキプロス戦後半は、中盤の距離感とバランスが非常によかった。長谷部が順調に復帰できれば、彼らがコートジボワール戦のファーストチョイスになりそうだ。昨年のコンフェデレーションズカップ以降、ブラジルやウルグアイ、オランダ、ベルギーなど強豪国との対戦で、毎回のように先手を取られている状況を考えると、重要な初戦は守備力の高いボランチ2人を配置せざるを得ない。

 ご存じの通り、長谷部はこの半年間で2試合しか公式戦に出ていないため、試合勘の不足は大いに気がかりだが、ドイツで屈強な男たちと対峙してきた経験はやはり大きい。ロンドン五輪で6試合フル出場し、過酷な環境でタフに戦えることを実証した山口なら、彼を確実にサポートできるはず。このコンビはチームに安定感と連動性がもたらすだろう。

 一方の遠藤はキプロス戦の前半、コスタリカ戦の後半、そしてザンビア戦の頭から90分近くプレーし、パフォーマンスは明らかに上向いている。だが、ザンビア戦の前半に象徴される通り、相手の圧力が強い時間帯は引き気味になり、持ち前のゲームメーク力やパスセンスを出せなくなりがちだ。相手の運動量が落ち、スペースが空いてきた時間帯の方が、持ち前の攻撃センスをより発揮しやすいのはないだろうか。

「選手である限りは先発では出たいですよ。だけど最初からだろうが、途中からだろうが、自分の持ってるものとチームの状況を考えて、ベストな選択をしながらプレーしたい」と遠藤本人もジョーカー的に起用される心の準備はできている。長谷部が間に合わなければもちろん先発に違いないが、国際Aマッチ144試合を数える大ベテランは、いかなる状況にも臨機応変に合わせられるはずだ。

 そして、もう1人の青山だが、大仕事をしてみせたザンビア戦終盤のように一発があるのは大きな強みである。昨夏の東アジアカップ以来、山口と息の合ったプレーを見せているのもアピールポイントの1つといえる。その反面、彼が入るとボールポゼッション率がやや下がる傾向があるのも事実。先発したコスタリカ戦の前半もタテへの意識が強すぎるあまり、大迫勇也のところで相手に奪われ、カウンターを繰り出されるシーンも目についた。青山の武器は時にもろ刃の剣になるだけに、彼をどのタイミングで使うかは難しい。とはいえ、短い時間でもゴールに直結するプレーができるこの男を使う局面は必ず訪れる。本人もその限られたチャンスに結果を出すべく、虎視眈々(たんたん)と狙っていくだろう。

 この4人を効果的に使うことが、ブラジルでの日本の命運を大きく左右する。長谷部の回復具合を含め、残り1週間で彼らの動向をしっかりと見極めることが肝要だ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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