クリアウォーターでの経験は生かされるか=日本代表タンパ合宿レポート(6月1日)

宇都宮徹壱

ものすごくテンションが高い市長

ザッケローニ監督の前日会見の前に、クリアウォーター市のクリテコス市長(右)があいさつ。熱いエールを送ってくれた 【宇都宮徹壱】

 日本代表の合宿地、フロリダ州タンパでの合宿で行われる最初の親善試合、コスタリカ戦を翌日に控えた6月1日(現地時間)、代表チームの宿泊先でアルベルト・ザッケローニ監督の前日会見が行われた。会見に先立ち、今回の日本代表の合宿を全面的にサポートしている、クリアウォーター市のジョージ・クリテコス市長があいさつ。この市長さん、何だかものすごくテンションの高い人で、最初から飛ばしまくっていた。要約するとこんな感じだ。

「サムライブルー(日本代表)をクリアウォーターにお招きできたことを、大変うれしく思うと同時に私も興奮している。皆さんの幸運を祈る! そしてぜひ、この美しいビーチを楽しんでいってほしい! クリアウォーターは、フロリダで最も良いビーチとして知られている。そして米国で最も美しいサンセットをぜひ堪能してほしい! そして皆さんが、近いうちにここクリアウォーターに戻ってくることを私は確信している。もちろん、ワールドカップ(W杯)のトロフィーを携えてだ!」

 さて、クリアウォーターという地名に対して「あれ、代表が合宿しているのはタンパじゃないの?」といぶかる読者もいると思うので、ここであらためて説明しておきたい。クリアウォーター市は、近隣のタンパ市、そしてセントピーターズバーグ市と「タンパ・ベイエリア大都市圏」を形成している。選手の滞在地とトレーニング施設はクリアウォーター市にあるが、コスタリカ戦とザンビア戦(6月7日)が行われるレイモンド・ジェームス・スタジアムはタンパ市にある。これらを総称して「タンパ合宿」とするのは、決して間違いではない。

 その後、市長から「再訪したときに迷わないように」という意味を込めたクリアウォーターのカギがザッケローニに授与され、ザッケローニからは感謝の意味をこめて日本代表のレプリカユニホームが手渡される。すると市長、やおらそのユニホームに袖を通し、その後の質疑応答はユニホーム姿で喜々としながら応じるではないか。この人、やはり只者ではない。ちなみにファミリーネームの「Cretekos」からも分かるように、市長のルーツはギリシャ系である。日本がグループリーグ第2戦でギリシャと対戦することを考えると、何とも不思議な因縁を覚えずにはいられない。

クリアウォーターは「仮想レシフェ」だった

W杯初戦に向けてコンディションを上げる選手たち。途中で別メニューとなった長谷部(左)の状態が気になる 【宇都宮徹壱】

 ところで今回の会見では、合宿の練習場をクリアウォーターに定めたことについて、ザッケローニが実に興味深い発言をしている。いわく「レシフェ、ナタルの暑熱対策を目的に、ここを選んだ」──。前回のコラムでは時差調整について触れたが、もうひとつ忘れてはならないのが暑熱対策と湿度である。この時期のタンパは日中は30度を超え、空を見上げれば群青色の空と照りつける太陽が印象的なのだが、時おりスコールのような豪雨に見舞われることもある。この天候、最近どこかで経験したなと記憶をたどると、昨年のコンフェデレーションズカップ、イタリア戦が行われたレシフェに思い至った。

 言うまでもなくレシフェは、14日(現地時間)に開催されるコートジボワール戦の会場である。ちなみにネットで調べた天気予報によれば、6月2日のクリアウォーターの気温は最高31度、最低23度で湿度は89%。一方のレシフェは、気温が最高29度で最低は22度、湿度は83%である。ナタルの信頼できるデータは見つからなかったが、距離は250キロしか離れていないので(今大会の開催都市間では最も近距離)、それほど気候に大きな違いはないものと思われる。

 ちなみに3戦目が行われる内陸部のクイアバは、最高24度、最低20度、湿度77%。標高も3都市の中で最も高い165メートルである(レシフェ4メートル、ナタル30メートル)。私自身は現地に行ったことはないが、沿岸部と比べてかなりの気候の違いが予想される。これらを勘案して、レシフェとナタルに近い環境で直前合宿を張るという今回のザッケローニの判断は、非常に理にかなったものに思える。さらに付け加えるなら、日本がグループCを2位通過した場合、ラウンド16の会場はレシフェとなることが決っている。ここクリアウォーターでの経験が、そこまで生かされることを今は願うばかりだ。

 この日の夕方からの練習は、雲行きが怪しい中でスタートし、いつものように冒頭15分で非公開。練習後のメディア対応は、小雨が降る中で行われたものの、選手のコンディションを考慮して早々に切り上げられた。コンディション向上のために組まれた今回の合宿だが、まだ完全に時差ボケが抜け切れない選手、あるいはコンディションが上向かない選手も少なからずいるようだ。負傷から復帰した3名(長谷部誠、内田篤人、吉田麻也)に加え、酒井高徳も指宿合宿で右ひざを痛めて別メニューが続いている。そして所属クラブで出番が限られていた本田圭佑と香川真司は、本番までに試合勘を取り戻さなければならない。本番に向けて、納得できる準備が進んでいる一方で、課題もまた山積している。明日のコスタリカ戦は、その試金石となるはずだ。

<6月2日に続く>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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