代表チーム強化の“秘訣”はクラブ化!? クラブチームとの関係でみるW杯優勝候補

西部謙司

ドイツは“ロベリー”のいないバイエルン

ドイツ代表でもバイエルンでも主将を務めるラーム。W杯本大会では、バイエルンの選手が7人ポジションを占めるかもしれない 【Getty Images】

 バイエルン・ミュンヘンはドイツ代表の中核を担ってきた。ブンデスリーガでは突出したビッグクラブであり、これまで多くのドイツ代表選手がプレーしてきた。一方、ヨーロッパの中ではレアル・マドリー、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドの財力には及ばず、堅実な経営方針から外国人スーパースターをかき集める補強策をとらなかった。そのため多くのドイツ代表選手を抱えるのが伝統になっていたともいえる。

 ブラジルW杯に臨むドイツ代表にもバイエルンの選手が数多く含まれている。マヌエル・ノイアー、フィリップ・ラーム、トーマス・ミュラー、トニ・クロースの4人は先発確実であり、ジェローム・ボアテング、バスティアン・シュバインシュタイガー、マリオ・ゲッツェを合わせて7人がポジションを占めるかもしれない。そうなるとドイツはバイエルンとほぼイコールだ。違っているのは、バイエルンで外国人選手がプレーしているポジションだけなのだが、実はそれが大きい。

 アリエン・ロッベン(オランダ)とフランク・リベリー(フランス)はドイツ代表にいない。“ロベリー”の有無は、スペインにおけるメッシの不在と同じぐらい大きな違いといえる。

 00年に始まった育成改革の成果が出始めた前回大会は3位、そして今回は攻撃力に秀でたMFが非常に多い。半面、ストライカーはベテランのミロスラフ・クローゼ(ラツィオ/イタリア)が頼り。中盤の選手層は圧倒的だが、FWが薄いのはスペインと同じだ。そしてジョゼップ・グアルディオラが監督になってから“バルセロナ化”したバイエルンとも同じである。マリオ・マンジュキッチ(クロアチア)でなければゼロトップのバイエルン同様、クローゼでなければドイツ代表もゼロトップを採用するだろう。

 グアルディオラ監督就任以来、バイエルンのビルドアップ能力は1シーズンで飛躍的に向上している。チャンピオンズリーグ(CL)ではバルセロナと並ぶボールポゼッションを記録し、パスワークにおけるコンビネーションの洗練度はCL随一だった。ビルドアップのキーマンであるラームとクロースがいるので、バイエルン独自のポジションチェンジを組み合わせた最先端のビルドアップ戦術をそのまま代表に取り込むことは可能だ。

 ただし、ドイツには“ロベリー”がいない。バイエルンのビルドアップは、突出したウイングプレーヤーが両サイドにいることを前提にしている。ドイツ代表のサイドアタッカーは多彩で、アンドレ・シュールレ(チェルシー/イングランド)、マルコ・ロイス(ドルトムント/ドイツ)、さらにゲッツェやメスト・エジル(アーセナル/イングランド)もサイドができる。しかし、いずれもロッベン、リベリーのような本格的なウイングではない。ドリブル突破の破壊力で及ばない。そのうえゼロトップとなると、圧倒的なボールポゼッションの出口が見つけにくい点でスペインと酷似してくる。

 ドイツは優勝候補だが、才能のほとんどが2列目に集中している。かつては人材を欠いたことがないセンターバックとセンターフォワードの層が薄い。ポジションのパワーバランスが偏っている。豊富すぎる2列目の人材をどう生かすかは、ドイツの命運を左右するのではないか。

半分“ユベントス”なイタリア

キエッリーニをはじめとする、セリエA最少失点数を誇るユベントス守備陣が、そっくりそのままイタリア代表の守備を担う 【Getty Images】

 チェーザレ・プランデッリ監督の下、イタリアはプレースタイルを変えた。守備重視の戦術からボールポゼッション型に変身している。保守的なイタリア代表の歴史の中では、94年W杯米国大会を率いたアリゴ・サッキ監督のゾーンシステム導入以来の改革といっていい。

 ただし、完全にスペイン化したドイツと違って、イタリアらしさも半分ぐらい残っている。ボールを保持するようになったものの、最後の崩しのところはストライカーの個人技に依存しているのだ。コンビネーションを使うよりも、例えばアンドレア・ピルロ(ユベントス/イタリア)からマリオ・バロテッリ(ミラン/イタリア)へのロングパス一発でフィニッシュへ結びつけるようなアプローチになっている。そのため、バロテッリ、アントニオ・カッサーノ(パルマ/イタリア)、ジュゼッペ・ロッシ(フィオレンティーナ/イタリア)といったゴールゲッターをメンバーから排除していない。

 後方はまさにユベントスだ。GKジャンルイジ・ブッフォン、DFが3バックならアンドレア・バルザリ、レオナルド・ボヌッチ、ジョルジョ・キエッリーニが有力で、その前方の中盤の底にはピルロ。この5人はそのままユベントスである。

 ピルロと組むMFはダニエレ・デロッシ(ローマ/イタリア)とリカルド・モントリーボ(ミラン)。ユベントスのポール・ポグバ(フランス)、アルトゥーロ・ビダル(チリ)と比べると機動力は落ちるが、パサーとしての技術は高い。ピルロ、デロッシ、モントリーボのトリオは、3人ともいわゆるボランチであり司令塔タイプだ。このあたりの人選は明確にボールを支配するためで、プランデッリ監督の方針が表れている。一方、ここにユベントスとの違いもある。

 ユベントスのポグバとビダルは上下動が激しく、攻撃のときは前線へ駆け上がる。アウトサイドの選手も同様で、中盤はピルロ1人という状況が頻繁に起こっている。ピルロは高精度のロングパスを蹴れるので、近くに味方を必要としないからだろう。守備のときにはポグバ、ビダルが素早く帰陣してピルロの脇を固める。この機動力の高さがユベントスの強みになっているのだが、イタリアにはそれが乏しい。そのぶんポゼッションは高くできるし、カウンター対策も手堅いが、FWへのサポートは薄い。4−4−2のときにトップ下を置くのは、FWを孤立させない配慮と考えられる。

 後方の人選はほぼユベントスなのだが、イタリア代表のプレースタイルはユベントスを踏襲していない。違う考え方でチームを構成している。しかし、メンバーの半分がユベントスとなれば影響は無視できない。とくに守備のコンビネーションはユベントスをそのまま借りてきた形になる。

 イタリアの強みは守備力とストライカーの個人能力だ。プランデッリ以前の改革者だった、サッキ監督が率いた94年W杯も、結局は守備力とロベルト・バッジョの得点力で決勝まで勝ち上がっている。戦術はマンツーマンからゾーンへと大きな変化があったものの、勝ち方はそれ以前もそれ以降もあまり変わっていないのだ。今回もボールポゼッションという新しい味付けはあっても、堅固な守備とFWの爆発力にかかっているのではないか。

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著者プロフィール

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『フットボール代表 プレースタイル図鑑』(カンゼン) 『Jリーグ新戦術レポート2022』(ELGOLAZO BOOKS)。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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