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代表チーム強化の“秘訣”はクラブ化!?
クラブチームとの関係でみるW杯優勝候補

限られる代表チームの強化パターン

86年のW杯を制したアルゼンチンは、まさに「マラドーナのためのチーム」を作り上げた
86年のW杯を制したアルゼンチンは、まさに「マラドーナのためのチーム」を作り上げた【Getty Images】

 優れた選手を選抜し、それぞれの特徴を生かすようにチームを構成する。代表チームとクラブチームの作り方に大きな違いがあるわけではない。ただし、代表チームは活動期間が限られている。少ない強化日数を効果的に使わなければならないので、実は有効なチーム作りの方法も限られている。


 (1)スーパースターを中心に再編成する

 (2)戦術的なアイデアを入れて統一する

 (3)同じクラブの選手を起用してコンビネーションを生かす


 スーパースターを生かした典型が、1986年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会のアルゼンチンだ。ディエゴ・マラドーナの能力を最大限に使って優勝している。カルロス・ビラルド監督は「マラドーナのためのチーム」を作った。ダニエル・パサレラを外してキャプテンをマラドーナに任せ、天才的なゲームメーカーだったリカルド・ボチーニとの併用も断念している。伝統のウイングプレーヤーも置かず、マラドーナ以外の10人で守り、マラドーナと2、3人の選手で攻めた。


 マラドーナのドリブルを1人で止めるのは不可能で、必ず2、3人を引きつける。そして、ドリブルしながら周囲の状況を把握できるマラドーナはわずかな隙間から決定的なパスを繰り出すことができた。攻撃のパートナーだったホルヘ・バルダーノとホルヘ・ブルチャガは、ゴールを直撃できるポジションをとればいいので、タッチラインに開いて幅を作る必要がない。ウイングは不要だった。


 攻撃はマラドーナ1本に絞っても成立する。あとは、マラドーナからもたらされるゴール以上に失点しないチームを作れるかどうかだった。


 戦術的なアイデアを入れて統一感を出している、最も身近な例は現在の日本である。アルベルト・ザッケローニ監督は、南アフリカW杯ベスト16のメンバーを軸にしながら、より攻撃的なチームを作る使命があった。所属クラブはばらばら、スーパースターもいないチームで攻撃力をアップするために、定型のコンビネーションを導入した。ビルドアップからラストパスまで、日本の攻撃にはパターンがある。もちろんそれがすべてではないが、軸になるやり方をいくつか導入することでチームをまとめている。


 同じクラブから複数の選手を選抜し、クラブのやり方をそのまま代表に反映させる手法は昔から用いられていた。74年、母国開催となるW杯で優勝した西ドイツは、決勝の先発メンバー中6人がバイエルン・ミュンヘンだった。西ドイツと決勝で戦ったオランダはアヤックスとフェイエノールトの合体。その後もユベントス中心のイタリア、レアル・マドリー中心のスペインなど、その国の強力なクラブチームの選手、コンビネーション、戦術をそのまま代表に転用する手法は、代表のチーム作りでは定番といえるほどよく使われてきた。


 しかし、それができる国は限られている。代表選手の大半が“国外組”では無理だからだ。自国のハイレベルな選手が特定のクラブに集中していて、さらにクラブ自体がハイレベルであることが条件になる。

メッシのいない“バルセロナ”がスペイン

スペイン代表のパスワークは、まさにバルセロナをほうふつとさせる“ティキタカ”。本大会での課題は得点力不足か
スペイン代表のパスワークは、まさにバルセロナをほうふつとさせる“ティキタカ”。本大会での課題は得点力不足か【Getty Images】

 W杯前回王者のスペインは“ほぼバルセロナ”だ。戦術の決め手となっているパスワーク、“ティキタカ”(ショートパスをつなぎながら複数のパスコースを作るスペインの戦術)を担っているのはバルセロナの選手たちである。ただ、スペインにはリオネル・メッシ(アルゼンチン)がいない。これはバルセロナとの決定的な違いといっていい。


 スペインが彼らの時代を作る最初のタイトルとなったユーロ(欧州選手権)2008では、現在ほどバルセロナ色は濃くなかった。FWにはフェルナンド・トーレス(当時リバプール、現チェルシー/イングランド)やダビド・ビジャ(当時バレンシア、現アトレティコ・マドリー/スペイン)といったストライカーを起用している。また、中盤の底にはマルコス・セナ(当時ビジャレアル/スペイン、現ニューヨーク・コスモス/米国)を置いて守備面での保険をかけていた。すでにティキタカはあったが、現在より速い攻め込みを狙っていたし、同時に相手のカウンターアタックを受けるケースも想定していた。バルセロナ色が濃くなっていったのはユーロ優勝の後、ルイス・アラゴネス監督から現在のビセンテ・デル・ボスケ監督に引き継がれてからだ。


 変化はマルコス・セナの不在、そしてゼロトップの採用である。この頃からボールポゼッションは、攻撃の戦術からゲームプランの柱になっていく。カウンターアタックへの防御力が卓越していたセナの不在により、シャビ・アロンソ(レアル・マドリー/スペイン)とセルヒオ・ブスケツ(バルセロナ/スペイン)の2人がピボーテ(守備的MF)を担当するようになった。ピボーテが1枚増えたことで、“クワトロ・フゴーネス”(シャビ、アンドレス・イニエスタ、セスク・ファブレガス、ダビド・シルバの4人を指す)のうち1人を外すか、FWを使わないゼロトップかという選択になった。10年W杯南アフリカ大会ではFWを残したが、2年後のユーロではゼロトップに変えている。


 結局、どちらにしてもスペインの強みはボールポゼッションの高さだった。攻め込んでいるので攻撃的な印象があるが、W杯優勝の要因は失点の少なさなのだ。7試合でわずか2失点しかしていない。逆に8得点はW杯優勝国としては史上最少だった。ノックアウトステージに入ってからはすべて1―0なのだ。2年後のユーロでは6試合で12得点しているが、失点わずか1と相変わらずの少なさ。ボールポゼッションによる“カテナチオ”(固い守備)である。


 中盤に数的優位を作るゼロトップはポゼッションを上げられる。トーレスはスペースがないと生きないFWなので、相手に引かれてしまえば有効ではない。どのみち相手に引かれてしまうのなら、ゼロトップで徹底的にボールを保持して1点を守りきってしまえばいい。ただ、バルセロナのようにメッシという切り札がないので、ボール保持のわりに得点がとれないだけだ。


 しかし、バルセロナ式のティキタカにも徐々に対戦相手の“免疫”ができてきた。1―0サッカーのまま乗り切れるかどうかは怪しい。ジエゴ・コスタ(アトレティコ・マドリー)という新しいカードを使い切れるかどうかは、ブラジルW杯のポイントになりそうだ。

西部謙司
西部謙司

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『4−4−2戦術クロニクル』『サッカー観戦Q&A』。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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