堀越正己、吉田義人が語る「国立の記憶」 国立競技場を彩った男たち
劇的な同点劇を経て、大学選手権決勝での再戦へ
大学選手権決勝で逆転トライを決めた吉田 【(C)ラグビーマガジン】
堀越 早稲田は引き分けなのに、勝ったつもりになって喜んだ。明治は負けたように悔しがった。その差が(約1カ月後の)大学選手権で出ましたね。
吉田 うちはゲームを支配しながら引き分けた。負けてはいないけど、勝てなかった。大きな悔しさが残りました。早稲田に勝つために歯を食いしばり、合宿所の生活も自律した。ついてきてくれた選手に対して、キャプテンとして責任を感じたし、凄く悔しかったですね。早明戦前に早稲田の全試合の得失点差を見ると、明治とほぼ同じでした。だから、差はほとんどないと覚悟していたはずなんです。それなのに、78分間の支配で自分にスキができた。主将の気持ちは、他の14人にも伝わったと思いますから、本当にいい教訓になった。だから再戦して、教訓を糧にして勝ちたいと強く思いましたね。
――ただ再戦を望んでも、実現しないことも少なくない。よく、大学選手権決勝での激突が実現しましたね。
堀越 「どこかが明治をやっつけろ」と思いましたね(笑)。早稲田には、「明治と1シーズンに2度戦っちゃいけない」というのがあるんです。本城(和彦/SO)さんのときなど、歴史がそう語っていましたから(1982年度、早大は早明戦は勝つも、優位と見られていた大学選手権では明治に敗退)。
吉田 得失点差で早稲田が関東大学対抗戦の1位扱いになり、僕らは2位扱いとなったんですが、僕らは大学選手権で勝ち上がるのに苦労したんですよ。1年の時と3年の時に負けた相手、大体大との1回戦には勝ったけど、準決勝、国立競技場での京産大戦が大一番になったんです。相手はFWが強くて、こちらは両PRがケガをしていた。ファーストスクラムでめくられましたからね。初めて見ました、うちのFWがああなるのは。前半、3対15とリードされました。ハーフタイム、「FWでもみ合うな。戦法を変えよう」と言いました。そして、なんとかBK勝負に持ち込んで勝った(29対15)。その試合は準決勝の第1試合で、2試合目が早稲田でした(相手は同志社大学)。(決勝に)来てくれ、来てくれ、と早稲田を応援しました。
堀越 うちは大学選手権に入って大勝続きだったんです。だから明治が苦戦しているのを見て、(決勝で対戦すれば)勝てるな……と思ってしまったところはありました。
吉田の決勝トライを止めに行けなかった堀越
吉田 後半逆転し、早稲田さんはノッていました。でも明治にとっては、待ちに待った再戦です。自分たちのやってきたことを信じてやっていれば、と。それだけを考えてプレーし続けました。
――決勝トライは。パスを受けたときの心境は。
吉田 パスは考えていませんでしたね。自分で最後まで持っていく覚悟でした。みんなの思いを託されたと思いました。(走り切ったのは)執念ですね。
堀越 あとから聞いたのですが、あの試合、北島監督はNO8の冨岡に言っていたそうです。スクラムからは、まず堀越に一度当たれ、と。冨岡は、それをいたるところで忠実にやっていたんですよ。だからあのときもFWの中に入っていて、(吉田が)走っているのを遠くから見ていた。本当だったら、あそこに僕がいないといけなかったのに……。それが悔しい。
「潜在能力まですべて引き出してくれる舞台」
母校、日本代表の後輩への期待を語る 【(C)ラグビーマガジン】
吉田 日本のスポーツの聖地ですよね、ここは。そこで早明戦がおこなわれ、大学選手権決勝も。学生としては、これ以上ない舞台です。練習の成果を発揮する場が試合なんだけど、大観衆の前という舞台は、(培ってきた以上の)パワーを与えてくれます。やってきた以上のもの、潜在能力まですべて引き出してくれる舞台ですよね。
堀越 同じ気持ちです。昨年の早明戦もスタンドから見ましたが、不利と言われた明治があれだけ戦う。地鳴りのような歓声が、みんなの背中を押してくれたのだと思います。大勢の人が、命を懸けた戦いをサポートしてくれる。覚醒させてくれる。そんな場所で、恥ずかしい戦いはできないですよ。早明戦でしか味わえないものを肌で知れて本当によかったし、その舞台がなかったら、そんな経験をできていなかったら、僕は日本代表にもなれなかっただろうし、ワールドカップにも行けていないと思います。(1991年のワールドカップの初戦で)村田さん(亙/現・専大監督)に先に出られてしまった(笑)ということもありますが、ワールドカップの空気に気圧されたということもなかった。それは、国立競技場の空気を知っていたからだと思います。
――そんな場所で5月25日、ジャパンが香港と戦います。ワールドカップ出場のかかった、アジア五カ国対抗最終戦です。
堀越 ファンの方々には、みんなの力を送ってほしいですね。その中で、日本代表には気持ちよく戦ってほしい。
吉田 ラグビーが、この舞台で最後に国際試合を戦う。幾多の選手、OBがここで戦ってきたからだと思うんですよね。それぞれの選手には自分の誇りを持って戦い、最後の国立に立つにふさわしく、みんなの気持ちを背負ってプレーしてほしいですね。2019年、日本開催のワールドカップもある。日本ラグビーここにあり、というものを示して世界に出て行ってください。
番組情報
ラグビーワールドカップの切符をかけた大一番!
ラグビー アジア5カ国対抗2014
「日本 vs. 香港」
5月25日(日)午後4:50〜 J SPORTS 3【生中継】
http://www.jsports.co.jp/rugby/