堀越正己、吉田義人が語る「国立の記憶」 国立競技場を彩った男たち

ラグビーマガジン編集部

「凄かったですよ。あのときの早稲田のディフェンスは」

国立競技場を熱狂させたふたりのライバル物語 【(C)ラグビーマガジン】

――いろんな駆け引きもあって、いい試合になりましたよね。接戦で、最後はゴール前で明治が攻め、早稲田が守る展開。スクラムやモール、ラックから湯気が出ていた。

堀越 このスクラム、スクラムって言いながら、味方のPRを叩いていました。押され、ペナルティを取られたら最初に止めようと思い、いつも身構えていた。

――明治は怒涛の攻めでした。

吉田 そうですね。キャプテンが大西一平さんだった。(大西さんがプレーしていた)NO8は(明治FWの中でも)絶対的な存在だし、キャプテンが右と言えば右、左と言えば左。大西さんの頭の中には、「FWでいく」しかなかったでしょうね。

――WTBとしては、実は回してくれたらトライだったのに……というシーンもあったのでは。

吉田 ありましたよ(笑)。僕の前、ディフェンスがいないですから。早稲田のBKはみんなFWの方に寄っている。回せ―って、一応呼んでたんですよ。でも(ボールが)来ないから、「ああ、もうFWで行くんだな」と。ただ寒かったんで、とにかく体を冷やさないように腿上げとかやっていました。

――早稲田は、「明治来いっ!」とか言ってましたよね。

堀越 僕は言ってないですよ(笑)。FLの神田(識二朗)さんは言ってましたけど。「大西来いっ!」と。

吉田 それはよく覚えています。ブラインドWTBでFWの近いところにいるとき、よく聞こえた(笑)。でも凄かったですよ。あのときの早稲田のディフェンスは。

堀越 レフリーは真下(昇)さんでした。お互いの選手をホメながらレフリングしていて、冷静なんだなぁ、と思いました。

「やはり練習しない年は負けるんですよ」

「雪の早明戦」を制した早稲田大 【(C)ラグビーマガジン】

――勝利の瞬間の感動は。

堀越 今駒(憲二)さん、中島(健)さんの両CTBと抱き合った。

吉田 負けたぁ。悔しい。それだけでしたね。

――語り継がれるあの試合の中で、特に印象深いシーンは。

堀越 勝った試合なので何度も見返しているのですが…やはり、あの吉田に取られたトライが悔しいんですよ、何度見ても。俺、ここにいれたんじゃないの、と。

吉田 後半、もう一度トライチャンスがあったんですよ。早稲田のノックオンを足にかけ、追いかけて(インゴールで)飛び込んだ。僕の中では(ボールに確かに)押さえたんですよ。トライを認めてもらえるか……と思ったんですがダメでした。決まっていたら逆転でした。ああいったスレスレのシーンが、早稲田との試合になるといくつもある(笑)。

――両チームのライバル関係が、名勝負を生む。

堀越 明治は、早明戦だけちゃんとやってるような感じですよね。才能軍団で、あんなに大きい。負けるはずがないのに、他大学にちょろっと負けたりするんです。分析なんてできない相手でしたね。どうせ早明戦だけ特別なんだから、と諦めてた(笑)。

吉田 僕が4年になるまでは、確かにそうだったかもしれません。毎年、キャプテンの色が出るんですよ。ただ、1年生から3年間レギュラーでやって分かったのは、やはり練習しない年は負けるんですよ。1年生、3年生と大学選手権1回戦で負けています(ともに大阪体育大学に敗戦)。才能あるのにもったいないな、と下級生ながら思っていた。2年生の時は安東(文明)さんがキャプテンですごく練習し、大学選手権で優勝したんです。日本選手権へはトライ数で大東大が行きましたけどね。

「前日にSHの先輩たちが色紙に言葉を書いて渡してくれた」

――堀越さんは1年生、3年生で大学日本一になりました。

堀越 特に1年生のときは先輩たちに守られてるというか、サポートしてもらっているのを感じていました。だから、「人のために」と感じながらやっていました。自分のためじゃないぞ、と。大学選手権決勝だったかなあ、日本選手権かなぁ、試合前日にSHの先輩たちが色紙に言葉を書いて渡してくれた。ライバルだった松坂さん(広之)が4年間使っていた(寮の)名札もいただいて、肉離れしていたふともものサポーターの中に入れて試合に出ました。それが終わったときにはなくなっていた。先輩をグラウンドの中においてこれてよかったかな、と。

――そういう思いでプレーして、早明戦勝利、大学日本一、日本選手権優勝と、1年生でほしいものはすべて手に入れた。

堀越 それらはチームがほしかったものですね。僕は一日一日を必死に過ごすことがすべてでした。練習を終えて、部屋に帰って、寝て。同部屋だった永田(隆憲)さんはキャプテンだから消灯の午後11時に寮内を回らなきゃいけないんだけど、僕はそのまま寝てましたから(笑)。

――濃密な1年生時を経て、ライバル関係はくり返されたわけですね。

堀越 よくライバル関係と言われますが、吉田とはポジションも違うし、そんな気持ちはあまりないんですよね。4年生の時はふたりともキャプテンになったからさすがにライバルと意識はしましたけど、それまでは接する機会がなかったもんね。俺、吉田に直接タックルしたことないんじゃない。

吉田 向かってきたことはあるよ。されたことはないですけど。凄い勢いで来たから、あれを食らっていたら膝をやられていたかもしれない。

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