いまさら聞けない、W杯はどこが強いの? 前回大会から4年間の世界の潮流を知る

清水英斗

今、世界の勢力図はどうなっているのか?

スペイン代表の優勝で幕を閉じた南アフリカ大会から4年、世界の潮流を振り返る 【Getty Images】

 4年に一度の祝祭。ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の開幕が、いよいよ来月に迫った。日本のサッカーファンは、アルベルト・ザッケローニ監督が記者会見で読み上げる23人の名前を、固唾(かたず)をのんでドキドキしながら見守っていたのではないだろうか? イメージしてみてほしい。今、それと同じような光景が、世界中の参加32カ国で繰り広げられているのだ。否が応にも、緊張感が高まってくる。

 思い返せば、2010年に行われた前回の南アフリカ大会は、スペイン代表が一つの時代、トレンドを感じさせる強さを見せつけた。欧州勢は欧州以外で開催されるW杯では期待できないという下馬評を覆し、スペインが優勝を果たしている。

 バルセロナやスペイン代表が成し遂げたこと。それは「サッカーの民主化」とも言われている。かつてはフィジカルやスピードといった先天的な影響が強い能力により、サッカーの優劣が評価されてきたが、彼らは身体的に恵まれていなくても、テクニックや状況判断を磨いたポゼッション(ボール保持)スタイルで試合の流れをコントロールし、世界の頂点に立てることを証明した。その象徴がバルセロナのシャビであり、アンドレス・イニエスタだった。

 あれから4年の月日が流れ、世界の代表チーム、そしてサッカーの勢力図にはどのような変化が起きているのか? この4年の世界の潮流を振り返りつつ、今回のW杯全体を展望してみよう。

優勝を狙う前回王者と南米の2強

 まずは前回王者のスペイン。今大会はチームの“自然劣化”と戦うことになるだろう。基本スタイルに変更はないが、中心選手のシャビは34歳、イニエスタも30歳になり、W杯の全7試合(グループリーグ3試合、決勝トーナメント4試合)をフルに戦い抜くには不安を残す年齢を迎えた。スペインの若手への新陳代謝はどこまで進むのか。バイエルン・ミュンヘンのハビ・マルティネス、チアゴ・アルカンタラのほか、今季のチャンピオンズリーグ決勝の舞台へ駒を進めたアトレティコ・マドリーのFWジエゴ・コスタ、MFコケなども有力候補と言える。

 ビセンテ・デル・ボスケ監督も今回のメンバー選考について、過去にないほど大きな悩みを抱えている。日本やブラジルのようにいきなり23名をバシッと決めるのではなく、先立って30名の候補リストを登録し、その後から23人に絞り込むことで、ギリギリまで選手の状態を見極める方向性を示した。過渡期をどのように乗り越えるか。「若手とベテランの融合」は、前回王者のキーワードになる。

 他方、そのスペインを13年のコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)決勝で破り、開催国としても勢いに乗るブラジルは今大会の優勝候補筆頭に挙げられる。指揮を執るルイス・フェリペ・スコラーリ監督は、バランスの取れた手堅いチームを作り上げる手腕を持っており、また、記者会見の発言をうまく使って国中にブラジルをサポートさせるように導く心理コントロールも巧みだ。コンフェデ杯からレギュラークラスの顔ぶれに変化はないが、マンチェスター・シティのフェルナンジーニョ、チェルシーのウィリアンなど、今季の活躍が目立つ選手をチームに加えている。彼らをどのように起用するのかも注目の一つだ。

 そして、最重要プレーヤーのネイマールに大きな期待とプレッシャーがかかるのは間違いない。今季バルセロナへの移籍を果たしたブラジル代表のエースは、エル・クラシコ(レアル・マドリーvs.バルセロナ)でゴールを決めるなど、初年度としては上々のシーズンを過ごした。ヘラルド・マルティーノ監督が指揮した今季のバルセロナは、ジョセップ・グアルディオラ時代やティト・ビラノバ時代に比べると、良くも悪くもリオネル・メッシへの依存度が薄まった。ネイマールのW杯の活躍次第では、ここ数年ケガが増えてきたメッシとの序列にも影響を与える可能性もある。

 また、そのメッシを擁するアルゼンチン代表も優勝候補の一つだ。というのも抽選会において、F組という“当たりクジ”を引いたことが大きい。広大な国土を持つブラジルは、北部と南部で気候の差が激しく、移動距離も長くなるが、アルゼンチンが入ったF組の第一シードは、グループリーグ3試合から決勝までの7試合をすべて南部の涼しい地域で戦うことができる。コンディショニングが鍵となる今大会において、すでにアルゼンチンが優位に立っているのは事実だ。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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