マラソン界で相次ぐ薬物違反に新傾向 主催者から報酬の全額返還要求も

及川彩子

組織的なドーピングの疑いも

10年のロンドンマラソンでは、優勝のショブホワ(中央)、2位のアビトワ(左)がともに薬物違反で失格に。2人は同じマネジメント会社に所属している 【Getty Images】

 ショブホワは「Spartanik RS」というマネジメント会社に所属しており、代理人はアンドレ・バラノフというニューヨーク在住のロシア人が務めている。そこには39人の女子選手、2人の男子選手が属しているが、ショブホワに加えて、先述のアビトワ、そしてタチアナ・アリャソワ(11年東京マラソンで優勝するも、その後ドーピングで失格)などのロシア人選手もいる。このマネジメント会社に属している女子選手のマラソンのタイム順で上位10選手中4人、トラック部門は5選手中3人、計7選手が薬物使用違反で処分を受けている。そのうち3選手が生体パスポート検査によるもの、また他の選手もマスキング(ドーピングを隠ぺいする行為)するなど、きわめて悪質なものだ。代理人は当然ながら関与を否定しているが、選手がそれぞれの意志で行ったのか、コーチや代理人が関与しているのか、不明点が多い。

 同じマネジメント会社の選手には、13年の横浜国際女子マラソン優勝のアルビナ・マヨロワ(ロシア)、13年、14年と大阪国際女子マラソンで連覇したタチアナ・ガメラシュミルコ(ウクライナ)など日本のマラソン常連選手も多い。長野マラソンには毎年のように選手を送り込んでおり、日本のマラソンをお得意様としている節がある。

選手の思いを踏みにじる卑劣な行為

 実際に被害を受けた選手からも声が上がっている。08年北京、12年ロンドン五輪でマラソンの英国代表だったマーラ・ヤマウチさん(現在はコーチ研修中)は、10年ロンドンマラソンで10位だったが、ショブホワ、アビトワの失格に伴い8位に繰り上がった。今回のショブホワの違反を受け、ツイッターで「女子マラソン世界歴代2位ロシアのショブコワがドーピング違反。同じロシア第一回横浜国際優勝のアビトワ、2011年東京マラソン優勝のアリヤソワもドーピング違反。日本女子マラソン界は歴史のある貴重なものです。日本女子マラソン界を守るため、こういう選手を大会に参加させるのを止めましょう!(原文ママ)」とコメントした。

 10年のロンドンマラソンは、アイスランドの火山噴火の影響で多くの飛行機が欠航になり、マーラさんはマネジャーを務めていた夫と、合宿先の米国・アルバカーキからポルトガルに渡り、そこからタクシー、レンタカー、セスナなどを乗り継ぎ、ほうほうの体でロンドンに到着した。そういった選手たちのレースに対する思いを踏みにじる今回の卑怯な行為に、マーラさんも怒りを感じているに違いない。彼女をはじめ、被害を受けた選手たちの心中は察するに余りある。

レースを守るのは主催者の役目

 現在、国際陸連のルールでは、ドーピング違反者に対し、初犯は2年、2度目で永久資格停止という処分になっている。「2年間、反省したからいいではないか」と思う人もいるしれない。しかし、ほかの種目と異なり、マラソンはレース展開によって順位が大きく異なる種目でもあり、違反した選手たちがいなければ、レース展開も順位もガラリと変わった可能性がある。
 しかも、出場料、賞金(日本のレースでは、海外のようにその存在が公にはされていないレースもある)、旅費などエリート選手にかかる費用は、スポンサーや同じレースを走る一般ランナーの参加費から出ているもの。つまり、一流ランナーだけの問題ではないのだ。

 今回のショブホワのドーピング事件を受け、マラソン界では「ほかのマラソンレースもWMMの規約に沿うべきだ」という意見も出ている。違反が発覚した場合は、過去に主催者が支払った賞金や旅費など、全額返還の要求できるように契約するべきだし、過去に違反した選手やそういった選手を多く出している代理人の選手を出場させない、という決まりがあってもいい。日本の陸上界は、ドーピングによる違反者が非常に少ないことで知られている。クリーンなエリート選手、目標に向かって走る一般ランナーにとって大切なレースを「ドーパー(薬物使用者)」から守るのは主催者の役目だ。

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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