代表候補合宿に5人を送り込んだ広島勢 ラストアピールでサプライズ選出なるか?

中野和也

塩谷司に感じる「勢い」

現在、広島で脚光を浴びているのが塩谷。攻撃力とポジションにとらわれない柔軟性、そして勢いが魅力だ 【写真:アフロ】

 広島でもう一人脚光を浴びているのは、塩谷司だ。公式戦18試合で6得点。DFにありがちな「セットプレーからのヘディング」は1点だけで、流れの中から攻撃参加してのゴールが3点、直接FKをたたき込んだのが2点。センターバック(CB)の攻撃力でいえば、田中マルクス闘莉王(名古屋グランパス)や槙野智章(浦和レッズ)と比較しても全く遜色(そんしょく)がない。しかも塩谷は、昨年の広島が記録した平均失点0.85という鉄壁の守備陣の中心。高さや強さ、スピードで外国人選手ともやり合える身体能力を有しているのは、今季のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)でも証明している。

 塩谷の魅力を「代表の構成」という部分でみれば、ポジションにとらわれない柔軟性も浮き彫りになる。もともと大学時代はボランチを務め、水戸ホーリーホック在籍時代は4バックのセンター、広島ではサイドバック(SB)の役割も担うストッパーやボランチ的な素養を必要とするリベロもこなしてきた。繊細にサッカーを突き詰めて考える知性も有しているから、広島の特殊な戦術の理解も早かった。SBとCB、緊急時にはアンカーとしても使える柔らかさも、彼の中には見いだせる。

 デメリットはもちろん、年代別代表すら経験していない国際経験の少なさだ。2年間、広島でACLを戦い、ホフレ・ゲロン(エクアドル)やフレデリック・カヌーテ(マリ)のようなヨーロッパでも活躍したタレントとも刃を交えたが、それで十分でないことは、自明。それでも塩谷選出の可能性を捨てきれないのは、勢いをつかんだ選手だけが持つ特別な何かを、彼の全身から感じるからだ。抽象的かつ論理的根拠にも乏しい言い方ではあるが、時にそういう説明不能の「何か」が物事を動かすことはある。

 1990年大会のサルバトーレ・スキラッチ(イタリア)が無名の存在から一気にスターダムにのし上がった事例から考えても、「勢い」という非論理的な存在は非常に重要だ。ザッケローニ監督が勝負師として、そこをどう考えているか。塩谷の選出は、そこが全てだ。

大舞台に強い石原直樹

大舞台に強い石原直樹(右)。彼も「日本を代表する」に値する選手だ 【写真:アフロスポーツ】

 もう一人の候補として、石原直樹をあげたい。得点数こそJリーグ3点・ACL2点とFWとしては物足りないかもしれないが、彼の魅力は得点だけにとどまらない。63キロという軽量だが、絶妙な身体の当て方を駆使しながら巨漢DFにも当たり負けない強靱さ。縦に抜け出すスピードや空中戦の強さなど、抜群の身体能力の高さと野性味は、あの久保竜彦を思い出す。チームのために献身的に走り、最終ラインまで戻って守ることもいとわない。大舞台での強さも、昨年の「勝てば優勝の可能性」という状況で迎えた鹿島戦や「負ければ敗退かも」というアウェーで行われたACLの北京国安戦(中国)での2得点で証明済みだ。

 29歳の彼も塩谷同様、年代別代表の経験はない。ただACLでは非常に強く、国際舞台でも臆さない気持ちの強さも彼の魅力。1トップでもMFでもできるマルチ性や攻守にわたる運動量などは、岡崎慎司(マインツ)を彷彿とさせる。石原は日本代表候補合宿でも追加招集だったわけで「一番下の立場だから」と代表については達観しているが、もし彼が選ばれたなら、これ以上のサプライズはあるまい。

 運命の5月12日、広島はACLでウェスタンシドニーと戦うために、オーストラリアへと赴く。そこに吉報が届くのか、それとも……。その全ては、アルベルト・ザッケローニが敢行した「なぜ」が多い合宿と、そこで彼が見たものにかかっている。

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著者プロフィール

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。近著に『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ソル・メディア)

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