代表候補合宿に5人を送り込んだ広島勢 ラストアピールでサプライズ選出なるか?

中野和也

終わったはずの「人材発掘」

代表候補合宿に5人を送り込んだ広島勢。最終メンバー入りの可能性が最も高いのが青山敏弘だ 【写真:アフロ】

 まず、最初に確認しておかねばならない。日本代表というチームは、決して「最も優れた選手を集めたチーム」でもないということを。

 今の代表は、アルベルト・ザッケローニというサッカー指導者が考えるサッカーを表現するために人材を選抜したチーム。それは技術・戦術だけでなく、ピッチ外での振る舞いや人間性なども、選抜に必要な要素だ。だから、もし違う監督であったならば、本田圭佑(ミラン)すら「必要ない」と判断される可能性も十分だ。かつてエリック・カントナはマンチェスター・ユナイテッドで「キング」として君臨していたのに、当時のエメ・ジャケ監督は彼をフランス代表には招集しなかった。1970年代の西ドイツ代表では、「天才」と絶賛されていたギュンター・ネッツアーを当時のヘルムート・シェーン監督はレギュラーとして遇さなかった。

 10年連続二桁得点の佐藤寿人(サンフレッチェ広島)や昨年の得点王である大久保嘉人(川崎フロンターレ)が代表に呼ばれていないからといって、彼らの実力が「日本を代表する」に値することは、実績で証明済み。ただ「ここまでは」ザックのチームに招集されてこなかっただけである。実力からすれば、彼らがブラジルのピッチに立っても、何らサプライズではない。

 ザッケローニ監督にとって「人材発掘」の段階は既に過ぎ去り、あとは代表選手たちの「状態確認」作業を終えて、リストに自らのサインを入れるだけになっているはずだと思っていた。

危機感から再び「発掘モード」へ

 ただ、4月7日から行われた日本代表候補合宿に、多くの未招集組が呼ばれたことが妙にひっかかる。なぜこの時期に、あれほど多くの新しい人材を呼んだのか。彼らを「試す」ための国際Aマッチは既になく、遠藤保仁(ガンバ大阪)などのこれまでの代表常連組は招集しない。遠藤や今野泰幸(ガンバ大阪)らがいた方がニューフェイスたちの戦術浸透も早いはずなのに、指揮官はあえてそれをやらずに、発表1カ月前の段階で大量の選手たちを拘束したのである。

 代表取材から遠い場所にいるからこそ、そこが妙にひっかかる。国内組のガス抜きなど、ワールドカップ(W杯)に向けてもはや必要はあるまい。「確認」であれば、常連組+当落線上の選手たちで十分。なのになぜ、ああいう性質の合宿を行ったのか。そこは、ザックが再び「発掘モード」に戻らざるをえないほど、チームが危機的な状況にあると考えれば、つじつまがあう。

 長谷部誠(ニュルンベルク/ドイツ)、内田篤人(シャルケ/ドイツ)、吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)らの故障離脱組だけでなく、信頼をおいている人材の何人かの状態に、黄色から赤の信号が点滅していると彼は見ているのではないか。「W杯にはコンディションのいい選手をつれていきたい」という指揮官の最近の発言は、危機感から生まれた本音なのかもしれない。

「代役」ではなく「選択肢」を与える青山敏弘

 そう考えると、代表候補合宿に呼ばれた5人の広島の選手たちにも、チャンスは十分にある。第一の候補はもちろん、もっとも招集回数の多い青山敏弘だろう。「エンジン」の異名どおりによく走る選手だが、彼の特長は心拍数が極限にあがった状態でも周囲が見え、50メートル先で走り出したFWに一発でロングパスを通すことのできるキック精度にある。昨年の東アジアカップで自陣深くから柿谷曜一朗(セレッソ大阪)に通して得点を演出した、あのロングパスだ。

 「遠藤の代役」という言われ方をするが、もしそういう選手を望むのであれば、むしろ柴崎岳(鹿島アントラーズ)だろう。青山はもっと直線的だ。緩急も意識できるが、「鋭」という文字こそが彼には似合う。ダイレクトでパスを出して、ゴール前に走ってパスを受けて得点を狙う。常に動きの中でプレーを創り、相手ボールに対してもアグレッシブにチャレンジする。それが青山であり、遠藤のかわりでも長谷部の代役でもない。

 守備的な個性でいえば、山口蛍(セレッソ大阪)の名前があがるが、彼もまた本質はアグレッシブだ。彼と青山のコンビは、チームに落ち着きと知性をもたらす遠藤・長谷部の二人とは明らかに違う。「代役」ではなく「選択肢」をザックが求めるのであれば、青山敏弘にブラジルへの切符を与えてもおかしくはない。

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著者プロフィール

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルートで各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。近著に『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ソル・メディア)

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