今季躍進のトヨタ車体が黒鷲旗・初優勝 成長を遂げた“策士”藤田のゲームプラン
「狙い通り」に奪った最後の1点
黒鷲旗・初優勝を飾ったトヨタ車体。セッターの藤田がチームを引っ張った。 【坂本清】
東レに対してセットカウント2−1とし、第4セットも24−21で迎えたマッチポイント、トヨタ車体のセッター、藤田夏未はエースのカナニ・ダニエルソンにトスを上げた。
1枚ブロックの上からクロスに放ったスパイクが、鋭角に相手コートに突き刺さる。
「序盤はライト、ミドルを使おうと決めていました。でも途中でデータを見たら、カナニが決まっていたので、最後はカナニにトスを集めました」(藤田)
チームで最も攻撃力の高いエースに託す。一見すれば何でもない得点の獲り方に見える。だが、カナニに対して1枚ブロックで打たせた、この最後の1点こそが、セッター藤田にとっては「狙い通り」のポイントだった。
約3週間前の4月12日に行われたVプレミアリーグの3位決定戦と同じ組み合わせとなった黒鷲旗の決勝戦。セッターの藤田は、今シーズンの対戦データや黒鷲旗の準決勝までの試合映像を何度も見直し、ゲームプランを考えて試合に臨んだ。
相手のプランを崩した藤田の思惑
藤田の対角に入る山田は、レフトの竹田沙希とともにサーブレシーブの軸となる選手であり、カナニや竹田と比べれば、攻撃型というよりも守備型の部類に属する選手。チームの中では「最初から得点力のあるカナニにボールを集めればいいのではないか」という意見もあるというが、藤田の思惑は違う。
これまでの対戦を見直す中で、得点力のあるトヨタ車体のセンターからの攻撃を封じたい東レは、山田をサーブで狙うことでプレッシャーをかけ、レフトのカナニや竹田に対してブロックを2枚配置するケースが多い。つまり、裏を返せば、山田がサーブレシーブをした時は、山田に対してブロッカーは1枚しかいない、ということでもある。
2枚ブロックに対して攻撃をしかけるよりも、1枚ブロックに対して攻撃するほうが、アタッカーは心理的優位に立つ。加えて、山田からの攻撃が決まれば、相手はブロックやレシーブで対応しなければならない。当初のプランを変更し、本来ならば手厚くしなければならない選手へのマークが手薄になる可能性も高まる。
実際に、藤田が試合の序盤で積極的に山田を使い、攻撃を通したことで当初のゲームプランが崩れたと東レの福田康弘監督は言う。
「(山田の攻撃に対しては)ブロックは1枚、ディグ(スパイクレシーブ)で対応すればいい、と考えていましたが、予想以上に本数が多く、ブロッカーの上から空いたスペースにうまく打たれてしまった。そこに対応することができず、結果として後手後手になってしまいました」
これまでの対戦成績からパターンを想定し、その裏をかく。前半は山田に集め、山田にマークが増えたのを見て、今度はうまくミドルを使い、勝負所でエースに託す。
まさに思惑通りの展開だった。