石田への恐怖心を克服した京太郎の充実感=後楽園を熱狂させた一夜のドリームマッチ

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海外の強豪と拳を交えた石田のキャリア

元K−1王者・京太郎と元世界王者・石田のドリームマッチに聖地・後楽園は熱狂 【t.SAKUMA】

 4階級アップでミドル級からヘビー級戦に挑んできた元WBA世界スーパーウェルター級暫定王者・石田順裕を判定で破り、ノンタイトル戦ながら負けた場合のみ王座剥奪というルールでベルトを死守した日本ヘビー級王者・藤本京太郎。ところどころ顔面に殴られた赤い傷が目立つものの、試合後の控え室で口は滑らかだった。
「石田さんとはもういいです。次やったら勝てないので……。本当に強かったです。でもすごい尊敬できる人で、すごい人柄もいいし、友達になれそうです。これでノーサイドですね」

 前日計量ではほとんど上の空だった京太郎に、怖くて眠れないほどのプレッシャーがあった。だからこそ勝利の喜びもひとしおだったのだろう。対戦相手となる石田は、2009年にWBA世界スーパーウェルター級暫定王座決定戦に勝利して王座獲得。さらに、ミドル級に階級を上げた11年4月には当時WBO世界ミドル級4位で27戦全勝(24KO)の新鋭ジェームズ。カークランドを1RKOで破り、12年にはWBO世界ミドル級王座を持つディミトリー・ピログに挑戦し12Rフルに渡り合っての判定負け。昨年は“絶対王者”ゲンナジー・ゴロフキンにも果敢に挑んだ(結果は3RTKO負け)。日本人には体格的なハンディがあると言われる中量級で、テクニックを武器に海外の強豪と拳を交えてきた石田のキャリアが京太郎に恐怖心を持たせた。

序盤はスピードとスキルを存分に発揮した石田

スピードとテクニックで序盤のペースをつかんだ石田だったが… 【t.SAKUMA】

 後楽園のリング上に並びたつ2人。観客からは「でけぇー」という驚きの声が上がり、試合開始前から期待感が膨れ上がる。日本のヘビー級を盛り上げるために、また14年のプロボクシング人生の集大成として「飛び抜けてバカなことをしたかった」という38歳の石田はこの対戦に対して「牛若丸と弁慶の戦いのように、スピードとスキルで挑みたい」と語っていたが、試合序盤は石田ペースだった。

 前日計量時点で105.5キロの京太郎に対して93.6キロと約12キロ差がある石田だったが、スピードのあるジャブで距離を詰め、2Rには左フック、右ストレートで「何発か効いたパンチがあってやばいと思った」という京太郎をぐらつかせた。京太郎が前に出ようとすると、的確なジャブなどで京太郎の間合いに入れさせない。「スキルがあれば体重差は関係ない。足を使って逃げることはしない」と堂々と打ち合いを宣言していた石田のインサイドワークが光った。

どちらが勝つか先が見えない展開に――

京太郎は「負ければ王座剥奪」のプレッシャーの中、僅差の判定でベルトを死守 【t.SAKUMA】

 しかし、ミドル級からヘビー級への4階級アップで、20キロの重りをつけてボクシングをしている石田のスピードが中盤から徐々に落ち、手数が少なくなっていった。その中で「前に来ていたのでごまかすのがうまかったけど、5Rから相手のスタミナは切れていた」と振り返る京太郎はワンツーだけにとどまらず、左フックなど連打を見せる。しっかりガードをしていた石田もカウンターを狙うがワンツーと攻撃が単発だった。

 お互い決定打こそなかったものの、どちらが勝つか先が見えない展開に後楽園ホールは最高潮の盛り上がりを見せたまま8R終了のゴング。「効いたパンチはなかった」と京太郎のパンチをブロックしていたと自負があり、有効打は打てていたという石田は両手を上げて勝利をアピール。しかし、判定は77−76、2者77−75で「結果は勝ちか、負けかまったく分からなかった」という京太郎に軍配が上がった。

 最後までスタミナを切らすことなく、手数を出していった京太郎は「大振りになったら絶対当たらないと思った」とパンチをシャープに打つことにこだわった。また、ラウンドが進む上で、「試合中は相手のセコンドの声を聞いて戦い方の参考にしていた」と冷静な戦いぶりも目立った。接近戦になるとすかさずクリンチをしてショートパンチを打ってくる石田のペースに持ち込ませない老獪さも目立った。

ドリームマッチを盛り上げた石田「楽しかった」

判定に不満を見せた石田だったが「楽しかった」と充実の表情 【t.SAKUMA】

 判定が出た直後は不満な表情を見せた石田だったが、「悔しさがないと言ったらうそになるけどやっていて楽しかった」と笑顔。JBCからタイトル戦に反対の声が上がり、日本ヘビー級にランクされず、ノンタイトル戦という一戦になったものの、無茶な戦いを終えて「楽しかった」という言葉が何度も出た。負けたら引退を明言していたが、「今後は妻と相談して決めます」と語るにとどめた。グリーンツダジムの本石昌也会長は「今後は彼次第。これで終われないなら力を貸したい」と本人の意思を尊重する意向を示した。

 K−1王者vs.元世界王者、ミドル級からの前人未到の挑戦――後楽園ホールを熱狂の空間に変えた一夜のドリームマッチ。この一戦をマッチメイクした角海老宝石ジムの萩森健一マネージャーも「お客さんも盛り上がって本当に良かったね」としみじみ。その横で「勝ったから言えますけど、30分前だったらそんなこと言えてないですよ」と、茶目っ気たっぷりに突っ込む京太郎にも恐怖心に打ち勝って勝利を得た充実感が漂っていた。
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