“怪物”野杁正明が目指す道「65kgを黄金の階級にしたい」

中村拓己

Krush−67kgのベルトを返上し、65kg級に転向する“怪物”野杁正明。その先に見据えるものは!? 【中村拓己】

 2009年にK−1甲子園王者となって以来、プロのリングでも圧倒的な強さを見せてきた“怪物”野杁正明。昨年は世界最大の立ち技格闘技団体と称されるGLORYの日本トーナメント優勝を皮切りに、世界トーナメント準優勝、WBCムエタイ日本スーパーライト級王座、そしてKrush−67kg級王座獲得と多くのタイトルを手に入れた。

 そして今年2月、WBCムエタイ・インターナショナルタイトルマッチで王者・大和哲也に挑み、惜しくも判定負けを喫したものの、ムエタイルール2戦目ながら大和をあと一歩のところまで追い込み、敗れてもなおその“怪物性“を見せつけた。

 その後、野杁はKrush−67kgのベルトを返上し、65kg級でKrushのベルト、そして改めて世界に挑むことを宣言。野杁が65kgという新たなカテゴリーで目指すものとは何か!?(取材日は3月23日ホーストカップ前)

2月に大和哲也と死闘「悔しい敗戦…」

今年2月にはムエタイルールでWBCムエタイ・インターナショナル・スーパーライト級王者・大和哲也に挑戦。激しい死闘を繰り広げたが、判定負けを喫した 【t.SAKUMA】

――2月16日のNJKF後楽園大会のWBCムエタイ・インターナショナル・スーパーライト級タイトルマッチ、大和哲也戦は壮絶な死闘でしたね。結果は大和選手に判定負けでしたが、改めてあの試合を振り返っていただけますか?

 客観的に見たらすごく盛り上がって面白い試合だったと思います。でも本当に悔しい一戦でしたね。絶対に獲りたいベルトだったので……悔しいの一言ですね。

――3分5Rフルラウンド戦うことは予想されていましたか?

 僕は早期決着でKOするつもりでした。やっぱりヒジがあるルールで時間が長引くと、一発で切られて逆転負けする場合があるじゃないですか。そうはなりたくなかったので早めに倒して終わらせたいと思っていました。

――大和選手と拳を交えてどんなことを感じましたか?

 気持ちの強さですね。僕はKrush、GLORY、WBCムエタイといろいろな舞台で戦っていますが、大和選手はWBCムエタイ一本に絞って世界の頂点を目指しているじゃないですか。そこで僕が大和選手に勝ってしまったら、大和選手が目指す道が途中で終わってしまう。戦っていて「そうはさせねえぞ」という意地を感じましたね。結構、僕の攻撃も効いていたと思うんですよ。でも大和選手はそこで踏みとどまって、下がるどころか前に出てくる。あれは戦っていて本当にすごいと思ってたし、対戦相手としては嫌でした。

名古屋と東京の選手ではハングリー精神が違う

――野杁選手も大和選手も名古屋出身で、ほかにも佐藤嘉洋選手など名古屋は強豪キックボクサーが続々と誕生する場所ですよね。野杁選手は何が理由だと思いますか?

 名古屋の選手が何か特別なことをしているというはないと思います。ただ同じ戦績だったら名古屋よりも東京の選手の方が注目されるじゃないですか。そういう部分で負けたくないというライバル心はあります。名古屋の選手はその気持ちが強いんじゃないですかね。

――東京の選手とはハングリー精神が違う?

 例えば東京で試合がある時、東京の選手は自分のジムでギリギリまで調整して、計量が終わったら家でゆっくり出来る。僕らは減量でしんどい時に新幹線で東京まで移動して、計量が終わったらホテルに戻るしかない。そういう状況で試合をしているので、負けたくないですよね。

――また野杁選手も子供のころから格闘技をやっていて、今日のホーストカップでもキッズクラスの試合が組まれていました。年齢を問わずアマチュアで試合するチャンスが多いという部分はありますか?

 そうですね。結構アマチュアの大会は頻繁にあるので、僕も大会がある時はほとんど出ていました。しかもアマチュアでも試合が盛り上がるし、今日みたいにお客さんの前で試合をする機会もある。それはすごくいい経験になると思います。

子どものころから過酷なスケジュール

――ちなみに野杁選手は最高でどのくらいのペースで試合をしていたのですか?

 キックの試合に出るようになってからは2週間に1回くらいですね。ただ空手時代は週1回ペースでやってました。空手は基本的にトーナメントなんで1日5〜6試合はやるんですよ。空手の試合でも東京に遠征していたので、1カ月のスケジュールが東京、東京、名古屋、東京みたいなこともざらにありました。しかもアマチュアの大会は試合が朝始まって夕方や夜に終わるんですが、僕らは名古屋じゃないですか。だから日曜日に東京で試合がある時は土曜の夜中に車で名古屋を出発して、朝会場についてそのまま試合して夜中に名古屋に戻ってくるというスケジュールで試合をしていました。

――それは過酷ですね…。でもそういった経験を積んでいれば嫌でもタフになりますよね。

 はい。特に僕らは小さいころからそういう経験を積んできたんで、自然に精神的に強くなれたと思います。

――野杁選手は空手出身ですが、やはり空手からキックに転向する選手が多いのですか?

 僕のジムでキックをやる選手は空手出身が多いですね。僕は空手出身の選手は打たれ強いと思うんですよ。空手は近い距離でバチバチに打ち合う競技じゃないですか。だから小さい頃から空手をやっていて、キックに転向する選手は最初から打たれ強い。それは大きなアドバンテージになっていると思います。

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著者プロフィール

福岡県久留米市出身。プロレスファンから格闘技ファンを経て2003年に格闘技WEBマガジンの編集部入りし、2012年からフリーライターに。スポーツナビではその年の青木真也vs.エディ・アルバレスから執筆。格闘技を中心に活動し、専門誌の執筆、技術本の制作、テレビ解説も務める。

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