国王杯が暗示したレアルとバルサの行く末 スペインサッカー界は新たな時代へ

同じトゥーキックで放たれた2つのシュート

国王杯はレアル・マドリーが優勝。宿敵バルセロナを破り、獲得した栄冠は新時代到来を予感させるものだった 【Getty Images】

 現地時間4月16日に行われたスペイン国王杯決勝は、レアル・マドリーがバルセロナを2−1で破り、3年ぶりの優勝を飾った。

 3シーズン前の決勝同様、延長戦の予感も漂い始めた85分、左サイドのハーフウェーライン付近でボールを受けたレアル・マドリーのガレス・ベイルが、この日キックオフ1時間前に医療スタッフから出場許可を受けたバルセロナのマルク・バルトラを振り切ると、GKホセ・マヌエル・ピントの股間を抜くシュートでゴールネットを揺らす。

 一方、そのわずか4分後、バルセロナのシャビがゴール正面から出したスルーパスにネイマールが合わせるも、ボールは無情にもポストをたたき、レアル・マドリーGKイケル・カシージャスの胸の中に納まっていく。

 くしくも、同じトゥーキックで放たれた2つのシュートの成否は、この試合の結果を左右するだけでなく、両クラブの行く末を暗示しているようだった。実際、『エル・ムンド』(一般紙)も「ベイルが1つの時代を更新した」と見出しを打ち、スペインフットボール界に新たな時代が到来したことを告げている。

レアルにとって意味ある勝利

 そしてこの試合では、そのベイルが新たなヒーローとなり、“1億ユーロ(約140億円)の男”の価値を証明した。試合前日、クリスティアーノ・ロナウドの欠場が確定すると、『アス』(マドリー系スポーツ紙)は「キャリアで最も重要な一戦」とエースに代わる活躍を厳命。また『マルカ』(マドリー系スポーツ紙)も「我々はこういう試合のためにベイルを獲得したんだ」というクラブ幹部の談話を取り上げ、“世界最高額の男”の存在価値に1つの審判を下す姿勢を見せていた。そんな中、58メートルの距離を時速27キロで駆け抜けて決めた“ゴラッソ(素晴らしいゴール)”は、周囲からの評価を確固たるものにするだけなく、昨夏の移籍成立後に「安い買い物だった」と言い放ったフロレンティーノ・ペレス会長の補強戦略の正しさをも証明することとなった。

『マルカ』は、先制ゴールを奪ったアンヘル・ディ・マリアと並ぶ最高評価の9点を与えて、「ベイル獲得にかかったあらゆる費用は、今日の試合で忘れ去られた」と1億ユーロの投資がこの優勝をもって十分に回収されたと強調。また『エル・パイース』(スペイン最大の一般紙)は、「メスタージャ(試合会場)に、ウェールズ人の足を持ったウサイン・ボルトが現れ、レアル・マドリーに王冠をもたらした」とその快足ぶりを独特の表現で伝えている。

 なお、このタイトルはチームにとっても非常に意味あるものとなった。先に行われたリーガ・エスパニョーラのクラシコで、レアル・マドリーは2連敗。同じくリーグ戦で首位を走るアトレティコ・マドリーにも1分け1敗と、“リーガ3強時代”が謳われる今シーズンにおいて、現在の順位(2位)を支えているのはその他17チームからの勝利でしかなかった。それゆえ、ここで負ければ大きな批判に晒されるのは予想できたことであり、来週のチャンピオンズリーグ(CL)準決勝・バイエルン戦へ向けて、対戦相手だけでなく、国内の懐疑的な目とも戦わなければならない可能性もあった。

 しかし、審判の判定に左右されることなく内容のある勝利を収めたことで、ひとまず「勝負弱さ」を克服。少なくとも1つのタイトルを獲得したことで、カルロ・アンチェロッティ政権は最低限のタスクを果たしたとの評価が与えられることになり、選手たちのメンタル面にもいくらか余裕が生まれるだろう。共に3冠を懸けた戦いとなるバイエルン戦、そしてリーガの逆転優勝に向けて一気に視界が開けたのは間違いない。

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著者プロフィール

1984年生まれ、徳島県生まれ。マニュアル制作会社に勤めた後、2011年夏からフットメディアに所属。J SPORTSのプレミアリーグ中継や『Daily Soccer News Foot!』などに関わり、ライター・翻訳をメインに活動する。学生時代にはバルセロナへ1年間留学。ルームメイトがアルゼンチン人だったこともあり、南米コミュニティーのなかでフットボールのイロハを学べたことが今の財産。

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