ノムさんが田中将大に教えた“原点能力”=メジャー成功を左右する恩師の助言

カンゼン

田中は楽天入団後、野村元監督(右)の下で大きな飛躍を遂げた。恩師が当時を振り返り、その成長ぶりを語った 【写真は共同】

 メジャーリーガー・田中将大を語る上で、この名将を欠かすことはできない。2006年に東北楽天の監督に就任した野村克也氏は07年に入団した高卒ルーキーを1軍で起用し続けた。恩師に、メジャーでの成功のポイントと、田中の投手としての能力の高さを聞いた。

当時のチーム事情で1軍起用に踏み切った

 日本プロ野球界において、田中の恩師と呼べる存在は、元楽天監督の野村氏をおいて他にいないだろう。田中は、07年のプロ入り後から3シーズン、野村監督の下でプレー。球界のエースに成長する基礎を育んだ。

 野村監督は「別に育ててない。何も教えてないんだから。チャンスを与えただけです」と謙遜して当時を振り返るが、その与えられたチャンスこそ、田中が成長する過程で、大きな意味があった。高卒ルーキーながら、開幕から先発ローテーションの一角を任された田中は、11勝をマークし新人王にも輝いた。
「マー君は、楽天と縁があったのが良かったと思います。言い方は悪いけれど、当時の楽天は実力のある選手が少ない最下位のチーム。だから、田中を使わざるを得なかった。もし彼が、例えばジャイアンツに入団していたら、最低でも1年間は2軍だったはず。あんなに早く芽が出る投手にはなっていなかったと思います」

 ルーキーイヤーから先発ローテーションに定着できたことは、田中本人も素晴らしい経験になったと感じているようだ。09年オフ、野村監督の退任に際して、田中は次のような言葉を残している。
「実は、野村監督から直接アドバイスをしてもらったり、叱咤(しった)激励をされたことはあまりなかったんです。でも、テレビや新聞を通して、いろいろなことを言っていただいて、その言葉が、頑張ろうと思えた1つの要因だったと思います。他のチームだったら、高卒1年目のお子ちゃまが、開幕1軍に残って、先発ローテーションを任されることはなかったでしょう。ずっと我慢して起用していただいて、その結果、11勝も挙げられて、新人王も獲得できたと思っています。野村監督じゃなかったらそういうふうに使ってもらえなかったでしょうから、すごく感謝しています。

 09年に限って言えば、4月に監督通算1500勝の節目のウイニングボールを手渡せたことが一番の思い出です。それに結果的に監督の最後の勝利……CS第2ステージ第3戦で、最後のウイニングボールを監督に手渡したのも僕だったので……そういうところでも、すごく縁を感じています」

 野村監督は「楽天との縁」と語ったが、田中本人は「野村監督との縁」と考えていたようだ。
「実は私も悩みました。本人のため……つまり、長くプロでやるためには、段階を踏んだ方がいい。2軍というどん底の世界も経験させた方が本人のためになるだろう。そうやって、じっくり育てた方がいいという思いもありました。でも、チーム事情が許さなかった。先発ローテーションは最低でも5人は必要だけれど、指を折って数えていっても、岩隈(久志)1人だけで、次の名前が挙がってこない。指を折ろうとしても、岩隈の次がいなかった。だから、マー君を起用したんです。結果から見て、そういう意味では、マー君は運が強いんだと思います」

名将をうならせた伝家の宝刀「スライダー」

 田中の楽天入団1年目。野村監督は春のキャンプで彼の放るスライダーに衝撃を受けたという。
「最初に見たとき、『このスライダーは、相手打者が嫌がるだろう』と直感しました。それまでのプロ野球界において、エース級と呼ばれる大投手たちは、そのほとんどが最初にストレートを評価されてきた。監督たちは、ストレートに魅力を感じて『これは使える』という判断を下す。でもマー君の場合、私はスライダーにほれました。速い、鋭い、曲がりが大きい。ブルペンで彼のスライダーを見ていて、稲尾(和久)の姿が重なりました」

 スライダーの名手といえば、野村監督のヤクルト時代の教え子・伊藤智仁の名前も挙がるが、その伊藤のスライダーをもってしても、鉄腕・稲尾のスライダーには及ばないという。
「切れ味自体は甲乙つけがたいが、コントロールに差がある。稲尾はスライダーを、インコースいっぱい、アウトコースいっぱいに投げ分けられましたから」

 残念ながら田中のスライダーも「まだ稲尾の域には達していない」という。だが、高卒ルーキーに、そんな往年の名投手の姿がダブって見えたというのだから、野村監督が当時、いかに衝撃を受けたかを理解できるだろう。
「稲尾はスライダーも良かったけれど、逆方向に変化するシュートも良かった。だから、マー君にもインコースを攻めるときは、真っすぐを使うなと教えた。スライダーを生かすために、逆方向の変化球を覚えなさい、と。それが彼のツーシームです」

 スライダーとツーシームのコンビネーション。田中の決め球としては、落差のあるスプリットにばかり注目が集まるが、野村監督直伝の武器がメジャーで通用するのか、その点も興味深い。

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