「桜の樹の下には」◎武豊ベルカント=乗峯栄一の「競馬巴投げ!第70回」
梶井も五木寛之もダメ、交尾が分かっていない
[写真5]ホウライアキコは単なる早熟馬ではない 【写真:乗峯栄一】
全然ダメだ。交尾が分かってない。カエル、サンショウウオなどの両生類は交尾しない。基本、水中で生殖するものは交尾という精子効率の悪いことをやらなくても受精できる。オスガエルがメスガエルの上に乗る場面はよく目撃されるが、あれは交尾じゃない。「抱接」と言ってオスがメスに排卵を促す行為だ。鮭の尾びれバタバタと同じだ。オスガエルはメスガエルを後ろから抱きしめるが、メスに興味がある訳じゃない。メスの卵に興味がある。梶井基次郎の「交尾」は「抱接」と題名を変えないといけない。交尾を分かってないから、桜の樹の下には屍体が埋まっているなどと、つまらないことを言ってしまう。
ついでにいえば、五木寛之の代表作の一つ「青春の門・筑豊篇」にも、同じ間違いが出てくる。クライマックス、主人公・信介と織江の二人が筑豊の街で初体験を遂げたあと「うち、まるでカエルになったこだる気持ちがしたとよ」と織江が漏らす。それに対して信介が「妙なおなごばい、はじめて男としたときは処女なら泣いたりするとが普通じゃろうが」と笑う。
ダメだ。梶井基次郎と共にダメだ。カエルはセックス(交尾あるいは体内受精)しない。カエルに初体験はない。でもまあ沼地のカエルはしょっちゅう二匹が重なっているし、織江が「カエル=見境いなくセックスするもの」というイメージを持つのはある意味仕方ないかもしれない。だったら信介、これから東京の大学へ出て行くというインテリ設定の信介がたしなめるのが筋というものだ。「織江の、このバカチンが、カエルはセックスばせんとよ、あれは抱接ば言うもんたい」とビシッと意見すれば、「青春の門・筑豊篇」はグッとレベルが上がった。
桜の樹の下には交尾が埋まっている。
武豊・角田晃一のフレッシュコンビに一票
[写真6]角田調教師とベルカント、桜花賞はこの馬で勝負や! 【写真:乗峯栄一】
[写真1]は大本命間違いなしのハープスター。[写真2]は4分の2の抽選をくぐり抜けたレーヴデトワール(ともに松田博厩舎)だ。松田博厩舎というのは、坂路調整もやるのだが、混雑を避ける意味なのか、水曜には坂路に上がらないシステムになっている。しかし何といっても多くの出走馬を撮影できるのは坂路上だ。逍遥馬道の頂点と、坂路追い切り直後の道はここで合流するから、ここは“栗東トレセンのイスタンブール(東西交通の十字路)”と呼ばれている(というか、呼んでいるのはぼくだけだが)ぐらいだ。だから松田博厩舎に有力馬がいる場合は、その馬を追いかけてコースに集中して他馬を諦めるか、他馬を撮るために坂路に上がって松博馬を諦めるか、この二者択一ということになる。でも、今週は水曜調教開始前(午前6時過ぎ)に松永昌厩舎に用事があり、松永昌厩舎と松田博厩舎は隣で、偶然調教前の乗り運動をしているハープ、レーヴに遭遇した。大ラッキーだった。
[写真3]は、そのあと坂路に上がって撮った3戦無敗のレッドリヴェール(須貝厩舎)だ。暮れのジュベナイル以来のレースとなるが、追い切りはよかった。ゴールドシップ、ジャスタウェイと乗りに乗っている厩舎だけに怖い。
[写真4]は松山弘平騎乗で追い切られたリラヴァティ(石坂厩舎)。チューリップ賞は権利取りのための逃げだったようだが、いい粘りだった。
[写真5]はホウライアキコ(南井厩舎)。逃げなくても確実に差して来られるようになった。単なる早熟馬ではない。
[写真6]はスポーツ紙の依頼で、フィリーズ・レビュー勝利直後に取材に行ったときのベルカントと角田調教師だ。騎乗の武豊は角田元騎手の2期上にあたる。「騎手が調教師の先輩」というのはやりにくいんじゃないかと余計な心配もしたが、話を聞くに、とにかく角田調教師は武豊先輩に全幅の信頼を置いている。「自分たちはただ馬の体調、調整に全力を注ぐだけ」というムードで、これはこれでいい関係じゃないかと思った。サクラバクシンオーの子ということで、トライアルからの200メートル延長を心配する声もあるが、千六ならバクシンオーの子でGIを勝った馬もいる。武豊・角田晃一のフレッシュコンビに一票入れてみたい。
ベルカント頭固定の3連単流し。ヒモに上記のハープ、レーヴ、レッド、リラヴァ、ホウライ、それに関東のフォーエバーモアとヌーヴォレコルトを入れて7頭、42点で勝負する。