歴然としていたバイエルンとの実力差 輝きを放った香川は終盤戦のキーマンに

河治良幸

バイエルンのシステム変更に対応できず

劣勢の中でも確かな輝きを放った香川(左)。終盤戦のキーマンとして重宝される可能性が高まっている 【Getty Images】

 ただ、本来ならそこでキャリックが後ろに下がり、ミュラーのマークを預かってヴィディッチにマンジュキッチを任せる、あるいは自らがマンジュキッチに付くことで、エヴラがマンジュキッチとロッベン2人を同時に見るという、危機的な状況は避けられたはずだ。しかし、セントラルMFの相棒フレッチャーはサイドに釣り出され、ルーニーとウェルベックが攻め残り、戻ってきた香川の役割も曖昧だった。そこで、キャリックはバランスを取る形でバイタルエリアに上がって来ようとしていたアラバに意識を割いたことで、クロスの対応に参加できず、ゴールシーンを見送ることとなったのだ。

 自陣に戻しながら浮いてしまった香川としては、キャリックとポジションを受け渡し、アラバらの侵入に備える形を取れば失点を防ぐ役に立てたかもしれないが、守備のキャラクターではない香川に、臨機応変に守備全体を動かすような対応を求めるのは難しい。セオリーとしては守備陣がしっかり統率して的確な対応につなげるべきだが、サイドがルーズになり、攻撃陣からの守備参加が足りない中で、混乱したままバイエルンの狙いにはまってしまったと言える。

「リードを守るという面で、ピッチでの経験が不足していた」とモイーズ監督。確かに勝負のポイントを考えると、この得点した直後の失点が流れを変えてしまったことは間違いない。ただ、それでも合計2−2であり、再び守備を締めてカウンターの機を狙っていけばノーチャンスではなかったはず。しかし、実際は4−1−4−1から4−2−3−1に変更したバイエルンのテンポアップに対応できず。68分にはリベリーの仕掛けからのクロスがファーに流れると、ロッベンにフリーで持たれてショートクロスをミュラーに押し込まれた。

モイーズの“墓穴を掘る”采配

 立場が逆転した状況で、モイーズ監督はエルナンデスを投入し、ルーニーを中盤に下げたが、これは失策だろう。1日の第1レグでつま先を負傷していたルーニーは週末のニューカッスル戦を欠場していた。モイーズ監督はこの決戦の命運をエースに託したが、この日はフィニッシュに精彩を欠いていたことに加え、守備参加も限定的だったのだ。76分、ロッベンにカットインから左足のミドルシュートを決められた場面では、香川が右の突破からチャンスを作りかけた直後だったが、高い位置を取っていたルーニーもキャリックも素早く自陣に戻れず、DFラインとの間が完全に空いてしまった。

 第1レグが1−1だったため、マンチェスター・ユナイテッドが第2レグで1点取れば、バイエルンが攻撃のギアを上げてくるのは当然だ。どれだけタイトに守っても失点リスクは増していたかもしれないが、得点直後の守備がルーズになったことに加え、失点後に立て直せないまま、ずるずると相手のリズムにはまってしまい、さらには指揮官の“墓穴を掘る”采配と、すべてが悪い方に向かってしまった。終わってみれば順当な結果だが、途中まで理想的な展開に持っていけていただけに、ユナイテッドにとっては悔やまれる結果だ。

 ただ、香川の動き自体は悪くなかった。時間帯でトップ下と左ウィングをチェンジしたが、守備に参加しながら起点のパス出し、効果的な飛び出し、ドリブルでの持ち上がりと、限られた攻撃人数の中で確かな輝きを放っていただけに、主力にけが人が続出する状況で、当初は“冷遇”していたモイーズ監督にも、終盤戦のキーマンとして重宝される可能性が高まったはずだ。

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著者プロフィール

セガ『WCCF』の開発に携わり、手がけた選手カード は1万枚を超える。創刊にも関わったサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で現在は日本代表を担当。チーム戦術やプレー分析を得意と しており、その対象は海外サッカーから日本の育成年代まで幅広い。「タグマ!」にてWEBマガジン『サッカーの羅針盤』を展開中。

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